「旧姓の通称使用」の困難さの先にある新たな問題

「選択的夫婦別姓、LGBT法案の賛成の方は挙手を」。衆院選公示の前日にあたる10月18日に行われた党首討論会で投げかけられたこの質問に、与野党9党首の中で自民党の岸田総裁だけが手を挙げなかった。

​10月18日の党首討論会で抱負を語る自民党の岸田文雄総裁〔PHOTO〕Getty Images

私は現在オーストリアで研究職に就いているが、オーストリアを含め世界の多くの地域で選択的夫婦別姓の導入が進む中、日本でも、導入に賛成する意見が7割を超えるという調査結果が報告されている(※)。それにもかかわらず、与党である自民党は、制度の導入に消極的な姿勢を崩さない。

※早稲田大学の棚村研究室と市民団体「選択的夫婦別姓・全国陳情アクション」の合同調査。2020年10月22日~26日に、全国の60歳未満の成人男女7000人を対象に行われ、「賛成」は70.6%だった。

選択的夫婦別姓の導入に否定的な意見の多くに共通しているのが、賛成派への代替案として「旧姓の通称使用」を挙げるという点だ。別姓という形を取らなくても、仕事等で旧姓を通称として使用「できる」のだからそれで十分ではないかという意見である。

ところが、例えば私と同じく研究職を目指していた妻は、以前の記事「夫が知らなかった、『夫婦同姓』が妻にもたらした苦しみ」でも書いたように、結婚後に従事した研究活動においても、その後に立ち上げた事業においても、旧姓の使用に関する多くの困誰を経験してきた。

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例えば研究業界では、「(旧姓) 著, 2019」の論文の次に「(新姓)著, 2020」の論文が出ても本人を知らない研究者からは同一人物による論文だとは分かってもらえない恐れが大きい。また立ち上げた事業においては、妻は会社役員としてもそれまで通り旧姓を使用したかったのだが、役員等の登記は戸籍上の氏名が原則であり、可能なのは括弧書きによる旧姓の「併記」のみであった。
そして多くの銀行が結婚による姓の変更に伴う口座の名義変更を強く推奨しており、妻も給与や還付金の振込先や顧客とのやり取りなど仕事に関する口座の名義は戸籍上の姓を用いている。
いまの日本が旧姓を簡単に使用「できない」状態なのは紛れもない事実である。

そして、私たち夫婦はさらに現在、このような旧姓使用の困難さの先にある新たな問題に直面している。