2021.10.29
# 学校・教育

「とりあえず」で就職を決める若者たちが、実はむしろ「合理的」であるといえるワケ

明確な「夢」「やりたいこと」なんかなくてもいい
飯田 一史 プロフィール

「とりあえず」は過去の行動を踏まえた合理的な選択?

――「とりあえず」はガチガチに理想やゴールを固めることで生じる現実とのギャップを生み出すことを避け、動きながら自分に合った場所を見つけていくものだと。可塑的・仮設的だからこそ環境変化にも対応しやすい、むしろ合理的なものだということですね。

中嶌 画期的な情動研究をされている心理学者・神経科学者リサ・フェルドマン・バレットの『バレット博士の脳科学教室 7½章』を読んでいたら「感情は行動のあとで生じる」と書かれていて、「とりあえず」志向に近いものがあるなと感じました。

――どういうことでしょうか。

中嶌 脳の神経系は状況判断を下す際に、過去のいくつもの出来事・経験を呼び起こして目の前の出来事と組み合わせ、直後に起こるであろうことに対して最善の判断をしているそうです。そして感情はその判断・行動のあとに起こる、と。

「とりあえず」志向も、行動ありきで実践しているようだけれども、その行動はおそらくその人が経験してきた過去の様々な出来事の記憶を結集して無意識のうちに行っている選択なのではないか。

キャリア理論でも「ひとは、過去の自分の延長線上に自分のキャリアを見立てる」と言われています。本人が自分を分析して明確に言語化できているかどうかはともかく、直感的に危険な選択を「とりあえず」ではしないと思うんですね。

――なるほど、それまでの人生における無数の行動の蓄積によって学習した経験則から「まあ、これが妥当だろう」と感じた選択を「とりあえず」と呼んでいると。そう捉えると簡単に「思慮が浅い」とは言えないですね。

 

中高年こそ「とりあえず」で行動しよう

――そうは言っても、自分の子どもや学生が「とりあえず○○」と言っていると「そんな漠然としていて大丈夫か」と不安になる保護者や教育関係者も少なからずいるように思いますが、しかし干渉する大人だって、「とりあえず」を完全に排除して進学やキャリアを決めてきた人はほとんどいないはずですよね。

中嶌 実は若年層だけでなく、指導・助言する側の成人後期ないし中年期・老年期の人に対しても「とりあえず」戦略は有効だと思っています。人生経験を重ね、家庭を持ち、仕事でも責任を負うほどに、冒険的なことはしづらくなります。そういう「失敗が許されない」という想いが強まるタイミングでこそ「とりあえず」の軽さは視野を広げ、新しい何かを呼び込む効果があるはずです。

――大人も「とりあえず」を見直してみる価値がある、と。では改めて、「とりあえず」で就職を考えている若者に対して助言はありますか。

中嶌 進路選択に際して「とりあえず」就職は全然かまわないと思っています。

毎年就活シーズンになると「よくわかんない」と言って動かない学生が多いんです。それに対して「活動するなかで腹落ちすることがあるから、とりあえずやってみな」と言うと、やりながらだんだんわかってくるのか、就職相談に来なくなる(笑)。動けば見えてくるものがあります。

もちろん、知識が乏しいなかで決断しないといけないのはしんどいことです。けれども初期キャリア段階で神経質に答えを求めて「新卒時点ですべて決まる」とは考えずに、「合わなければ変えればいい」というスタンスで、ゆるやかに意思決定するほうが自分らしい生き方につながるのではないかと思っています。

関連記事