2021.10.29
# 学校・教育

「とりあえず」で就職を決める若者たちが、実はむしろ「合理的」であるといえるワケ

明確な「夢」「やりたいこと」なんかなくてもいい
飯田 一史 プロフィール

未来を見通せない以上「とりあえず」で選ぶのは当然

――ざっくり言うと、不安で、時間が差し迫るなか、どう転ぶか曖昧な状態から脱するための方策が「とりあえず」である、と。一般的には、明確な夢ややりたいことを持って進学やキャリアを選ぶのがよしとされ、「とりあえず」の行動はいい加減なものだとみなされがちですが、中嶌さんはそれをむしろポジティブに捉えているそうですね。

中嶌 長い人生のなかにはターニングポイントとなる経験があります。しかし、就職にしても進学にしても決める時点では多くの人は曖昧なまま選択します。そしてその数年後に後付けで「あれはよかった」と思ったりする。誰しも先々がきっちり見通せることは少ないわけですから、「とりあえず」をきっかけに選択するのはある意味でもっともなことです。「とりあえず」でアクションを起こしたあとどう過ごすかの方がむしろ重要です。もちろん、うまくいく/いかないはありますが、そのとき得た感情や経験を受けとめて成長できればいいのです。

 

――「とりあえず」がもたらす良いことには、どんなものがありますか。

中嶌 ふたつあります。ひとつは、自分自身を省みる機会をもたらしてくれること。「とりあえず」の就職であっても、それが“仮の”“暫定的な”意思決定にすぎないとすれば、あくまで“仮”ですから、「これはよくなかったな」「これは自分に合ってるな」と後から軌道修正ができますよね。「とりあえず」なのだと思うことで、柔軟に微調整できる。

もうひとつは行動に移しやすいこと。“仮”だからこそ肩肘張らずに行動に移せるし、失敗しても引きずる必要もない。実行に向けての敷居が低いわけです。

――「とりあえず」で行動していくうちに向き不向きも見つけていきやすくなると。

中嶌 ですから「とりあえず」志向をもっとポジティブに捉えることが社会に普及すると、進路選びがしやすくなるのではと思っています。

[PHOTO]iStock

――ただ、就職の面接で「とりあえず受けてみました」と言ったら落ちますよね。

中嶌 それはその通りです(笑)。実は私が「とりあえず」志向を研究しようと思ったきっかけは、公務員の専門学校の教員をしていた前職時代に、学生たちに面接練習をしていたときに志望動機を聞くとうまく答えられず、なぜかと掘り下げていくと口々に「だって、とりあえず公務員でしょ。安定してるし、喜ばない親はいないでしょ」と本音では思っているとわかり、人生の岐路にある就職に際して「とりあえず」とはなんだろう? と思ったことにありました。

面接では建前の理屈を作ることも必要でしょうが、本音の部分では自分の今の気持ちに正直になり、「とりあえず」でも選択していくうちに、その中でそれぞれが将来を思い描ける社会が実現できるのではと思っています。

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