残された妻が老人ホームに入り続けられる

幸い、ご夫婦ともに「尊厳信託」の契約を済ませていたので、その中に組み込まれている任意後見契約の効力を発生させる手続を、2人同時に行いました。成年後見の申立てと違って、ご夫婦それぞれの兄弟姉妹たちに連絡したり協力を仰いだりする必要は一切ありません。その結果、「尊厳信託」の契約受託団体が法人として、ご夫婦それぞれの任意後見人に就任し、家庭裁判所が選任した任意後見監督人の弁護士による監督を受けながら、ご夫婦の財産調査を行い、妻がこの先も入居中の老人ホームの費用を支払い続けられる状況を確認したうえで、夫の療養に使える資産を割り出していきました。

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その半年後に、頑張っていた夫が一度も目を覚ますことなく息を引き取り、妻は夫が亡くなったことも理解できずにいました。準備万端な夫は、「私の財産をすべて妻に相続させる」という内容の公正証書遺言を書いていたので、法定相続人となる夫の兄弟や甥姪たちに遺産を配分する必要もなく、夫の遺産はすべて任意後見人が管理する妻の財産となり、夫の遺族年金の支給を受けることもできるようになった妻は、今も夫の用意してくれた老人ホームで穏やかに過ごしています。

このように、何事にも準備万端だったSさんご夫婦のような方は、まだまだ珍しいのかもしれません。しかしもしこの事例で、事前に「尊厳信託」の契約もなく、一戸建ての自宅に住んだままの状態でこのような状況になったとしたら……ということを想像すると、恐ろしくさえなってきます。