夫が締結した「尊厳信託契約」とは

認知症が進行してしまった妻を支えていた夫が、急に脳梗塞により意識消失してしまったというSさんご夫婦。Sさんご夫婦は、まだ2人で元気に千葉県内の一戸建ての自宅で暮らしていたときに、すでにもう何十年も行き来のない夫婦お互いの兄弟姉妹や甥姪の世話にはならないと決めて、「尊厳信託」の契約を締結していました。

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こういう契約をするつもりだということを、会社員のときからの仲の良い友人に話してみたところ、「そんな契約なんて、高い金を払ってまで必要ないよ。困ったときは、俺も何とか力になるし、イザとなれば兄弟たちだって動いてくれるさ」という答えだったそうです。Sさんは、「なんの正式な約束もしていない友人が、どんな力になってくれるというのか。兄弟たちだって、どっちが先に弱るかわからない。子どものいない夫婦の気持ちは、子どものいる夫婦には理解できないんだなぁ」と感じたといいます。

さてその後、妻に認知症の症状が出始めて、自宅での生活が難しくなってきたと感じ、老人ホームの夫婦部屋に転居して心地よく過ごしていたSさんですが、妻の認知症が悪化の一途を辿っていった矢先に、夫が急な脳梗塞で意識消失してしまいます。まったく意識が戻る見込みのない夫の今後の療養場所について、重度の認知症の妻が決められるわけはありません。夫も妻もまったく自分たちのことが判断できない、財産管理もできない状況に陥ってしまったのです。