生涯独身、パートナーに先立たれた等で「おひとりさま」となった高齢者は多い。また、パートナーや兄弟、子どもはいるけれど、様々な理由から老後、頼りたくないというパターンもある。現代の高齢化社会を生きる高齢者たちにとって、自分のエンディング期について考える“終活”は、もはや必須のこととなっている。『家族に頼らないおひとりさまの終活』(ビジネス教育出版社)で紹介されている高齢者に起こりがちな事件簿は、他人事とは思い難い事例が多数。その中のひとつ、終末期の夫婦に起こった事件を本書から抜粋の上、再編成して見て行こう。

夫婦の形勢逆転はいつでも起こり得る

書籍から引用
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千葉県のベッドタウンの一戸建てにお住まいだった80歳代前半のSさんご夫婦には子どもがなく、夫婦で仲睦まじく暮らしてきました。

夫は必死で働いて、63歳で退職しました。妻は結婚後は専業主婦として忙しい夫を支えてきました。ある時期から、妻に認知症の症状が強くみられるようになり、次第に掃除ができなくなる、買い物に行っても何を買ってくるのかわからなくなる……など、家事全般を行うことが難しくなりました。夫がその分を手伝おうにも、うまくできない。しかも、妻の足腰が目に見えて弱くなり、寝室のある2階への階段を上がることも難しくなってしまいました。

そこで夫は思い切って自宅を売却し、夫婦そろって有料老人ホームに入居することにしました。通常、有料老人ホームは個室がほとんどですが、居住面積の広い部屋を「ご夫婦部屋」として提供しているところもあります。有料老人ホームへの転居のタイミングは的確で、その後、妻の認知症はさらに進行し、意味のある言葉のキャッチボールもできなくなってしまいましたが、普段の介護は老人ホームの職員がやってくれますし、夫が妻の分まで金銭の管理をして、老人ホームのレストランで三食を食べながら、ときには一人で趣味の競馬を見に行ったりして過ごしていました。

ところが、元気だった夫が急な脳梗塞で倒れてしまったのです。脳の損傷の度合いは激しく、完全に意識がないまま命がつづいている状態でした。夫はとても入居していた老人ホームに戻れるような状態ではありません。ホームに残された妻に、職員が夫が倒れたことを説明したら「あら、私は結婚なんてしたことはないわよ」と答え、夫の存在すらまったく理解できない状況でした。今後、Sさんご夫婦はそれぞれどのように生活していけばよいのでしょうか。