夜中から明け方の徘徊対策に疲れ果て

ところが、せっかく介護の空白時間が埋まったと思ったら、今度は夜中から明け方に事件が起きるようになった。

私の実母・登志子が認知症になったときもそうだったが、彼らにとってはどうやら目が覚めたときが朝なのである。ふと目が覚めると、外が暗かろうが明るかろうが、朝だと思って行動してしまう。
夜、私たちが床に入り、そろそろ眠りに入るという時間。夫も娘も、いったん眠るとよほどのことがなければ起きない。私だけが、音に敏感で目が覚めてしまう。

階下でドタドタと足音がする。義母は歩行能力が落ちてから、つま先からつんのめるように歩くので、独特の音を立てるのだ。部屋をぐるぐる回っているようだ。そのまま様子を伺っていると、玄関ドアがガチャリと音を立てる。しまった。外に出てしまう!

パジャマのまま、階段を駆け下りる。玄関の鍵がかかっておらず、義母の靴がない。サンダルをつっかけて外に出ると、パジャマにカーディガンを羽織った義母が、前のめりに歩いていくのが目に入った。

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夜中だから大声を出すわけにはいかない。追いついて、「おかあさん」と小声で呼び止める。
「どこ行くんですか。夜中ですよ」
驚いて振り向いた義母が、当惑した声で
「だってえ、Kがまだ帰ってこないんだよう」
「いや、Kなら2階で寝てます。だいぶ前に帰ってきて、ご飯も食べてお風呂も入って」
「そうなの〜? おかしいねえ。このところ、Kの顔を見てないんだよう」

夜中の徘徊対策を講じなければいけなかった。部屋に鍵をかけて閉じ込めるのは、老人虐待になるからできない。仕方がないので、廊下と部屋に、スーツケースや大きなダンボールを障害物としてランダムに置いた。窓のシャッターは、開け方がわからなくなっているので心配ない。玄関ドアのノブと鍵に、スズランテープを巻き、「今は夜中!」とマジックで書いた紙を貼り付ける。これらを毎晩設置し、毎朝はずす日々が始まった。

【次回は11月9日(火)公開予定です】

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