朝は、家族全員が職場や学校に行くのでバタバタしている。洗面所では夫が髭を剃っている。私が義母に朝食を持っていったとき、髭を剃り終えた夫が、義母の部屋の仏壇に歩み寄っていた。たまたま立っていた義母が夫とすれ違う。そのとき。

「Kはどこ行ったんかねえ」

ギョッとした。たった今、「自分の息子」とすれ違ったばかりなのに、どこに行ったのかと探しているのだ。息子のことがわからなくなったのだろうか? 

「お義母さん、Kならここにいるじゃないですか」
夫も怪訝な顔をして戻ってきた。義母は狐につままれたような顔をして、私と夫の顔を見比べる。
「ああ、ここにいたんか。わからなかった」

その後も、義母は2時から4時ごろになると息子を探しに出ることがあった。義母の頭の中では、小学生の息子が50代の息子に取って代わろうとしていた。

義母の息子、つまり上松さんの夫はもちろん成人だ。しかし義母の中では「学校に通っている息子」になっているのか…Photo by iStock
-AD-

徘徊の頻度が上がってきた

認知症の程度が進むにつれ、明らかに変わったのが、「徘徊」の頻度だった。ぐったりとベッドで寝込んでいるかと思うと、目を離した隙に外に出てしまう。デイサービスに行っていれば、行方不明にはならない。家族やヘルパーがいるときなら、探して連れ戻すこともできる。問題は、ケアする人間の連携がうまくいかずに空白時間ができたときに起きた。

ケアマネジャーに相談し、ヘルパーによる家事補助をやめ、月〜土曜までデイサービスで過ごさせることにした。早めに帰ってくると、私の帰宅が間に合わないことがあるので、夕飯も施設で食べさせてもらうことになった。これはかなり大きな助けになった。少なくとも夕方の空白時間はなくなる。

逆に、お迎え時間に出ていってしまう恐れもあったが、朝のうちに何度も噛んで含めるように言い聞かせ、玄関ドアの内側と下駄箱の外側に「デイサービスのお迎えがあるまで家にいてください」と大きな貼り紙をしたら、出ていかなくなった。

玄関ドアのノブには、キーボックスをつけ、返答がなかったら鍵を開けて入ってもらうことになった。