おトイレがね、最近間に合わないんだよ

あるとき、義母は私を捕まえておずおずとこう切り出した。

「容子さん、おトイレがね、最近間に合わないんだよ。『生理帯』を買ってくれないかね」
「生理帯」とはもちろん生理用ナプキンのことだが、義母が言いたかったのは尿もれパッドだと思われる。しかし、彼女が失敗する水分は、尿もれパッドでカバーできる量をはるかに超えていた。
「お義母さん、たぶんパッドじゃ足りないと思うんですよ。最近は紙パンツを売っているから、それを買ってきましょうか」
「紙おむつ」とは言わなかった。今どきの「リハビリパンツ」という表現もわかりにくいだろうから、紙パンツと言ったのだが、義母の脳内で、自分が求めるものと私が口にしたモノのイメージが一致したらしい。
「へええ、そういうのがあるの。じゃあ買ってもらおうかな」

さっそく、市販のリハビリパンツで最も薄型のものを買ってきた。モコモコしたものは、きっと嫌がるに違いない。義母は私が買ってきたものをあっさりと受け入れた。それからは、パンツが足りなくなると自ら申告して手元に置くようになった。

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「あのころ」の息子を探し回る義母

認知度が急激に低下し始めたころ、デイサービスはまだ週2回で、平日3日は午後にヘルパーが来て家事を担当してくれていた。ヘルパーの方はは丸一日いてくれるわけではない。このときは、頼めてもせいぜい1日1時間程度だった。以前は、午後2時頃に●●さんが来てくれますよ、と伝えておけば家で待っていたのだが、ある日私の携帯にヘルパーの方から連絡が入った。

「トミ子さんがいらっしゃらないんです! ドアホンを押してもお出にならないので、最初はお庭からお部屋を見たのですが、いらっしゃらない。ドアに鍵がかかっていなかったので、お声をかけたのですが、やっぱりお留守みたいで」

職場の人に頭を下げて、慌てて帰宅した。すると、その途中でまた電話が入る。
「おうちの周りを探したら、近くの道路を歩いていらっしゃいました」

このときはとりあえず事なきを得た。ヘルパーの方はそのまま、夕飯の手伝いなどして帰ってくれた。帰宅して、義母に家を出た理由を尋ねると、驚きの返答が返ってきた。

「そろそろK(息子)が学校から帰ってくる時間だから、迎えに行ったんだよ」

まだ明るい時間帯である。なぜ「息子」が帰ってくると思ったのか。その理由は翌朝わかった。