大蔵省「接待漬け」汚職事件 ガサ入れの瞬間

金融庁戦記 企業監視官・佐々木清隆の事件簿2
大鹿 靖明 プロフィール

4人逮捕、3人自殺の衝撃

3時間、4時間過ぎても捜索は終わらなかった。午後10時過ぎになって、三塚蔵相が記者会見で辞意を表明した。それをぼんやりとテレビで見る。ずっと捜索に付き合い、終わったのは明け方に近かった。押収目録にサインした。最悪の日だった。

それだけでは終わらなかった。2日後、検察から出頭の呼び出しを受けたノンキャリの金融取引検査官が官舎で首を吊って自殺した。そのことが伝わると、職場は沈鬱な空気に包まれた。佐々木は検察との窓口を仰せつかっていた。東京地検特捜部から、だれそれさんを寄越してほしいと電話を受けると、その人に「悪いけれど、ちょっと行ってくれないかな」と頼み込む係だった。しかも、事情聴取が終わって疲れ切って帰ってきた相手に「どんなことを聞かれましたか」と尋ね、メモにして課長や本省秘書課など関係する各課に配付する役目も仰せつかった。地検からは「次はだれそれを」と頻繁に電話がかかってきた。忌まわしい声だった。電話の主は大鶴基成という検事だった。

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東京地検はこのあと、キャリア官僚である証券局総務課の榊原隆課長補佐とノンキャリの証券取引等監視委員会の宮野敏男上席証券取引検査官を収賄の疑いで逮捕した。逮捕する予定だった同省OBの新井将敬衆院議員は、その直前に都内の宿泊先のホテルで首吊り自殺した。参考人として事情聴取されていた中小金融課の課長補佐も自殺した。大蔵関係では4人が逮捕され、OBの新井を含めて3人が自殺した。

 

世間は東京地検特捜部の捜査に喝采したが、このころから特捜部に「暴走」「傲慢」の悪癖があらわれるようになった。「とにかく検察の捜査は乱暴だった。頭から決めつけてかかってきて、締め上げれば何でも言うことを聞くと思っているんだ」。このときにトータルで200時間も事情聴取された野村証券の元MOF担は言う。同じように大蔵省証券局で課長補佐だったキャリア官僚は「それまで何事もなく行われていた接待が、ある日から突然、贈収賄とされてしまったが、そんなのおかしいだろう」と憤懣やるかたなかった。

本来、権力の行使に対してせめて批評的であるべきマスコミはこの当時、検察と親密な関係を結んで情報を取ることに汲々としていた。彼らはまるで戦時中の従軍記者だった。

金融庁戦記 企業監視官・佐々木清隆の事件簿』は絶賛発売中。WEBでは掲載しきれない、戦いの数々を読むことができます。

序 章 エリートが輝いていたころ
霞が関のジローラモ/上を向いて歩こう/秀才たちの流儀

第一章 最強官庁の揺らぎ
バブル/損失補塡/組織防衛

第二章 舐められてたまるか
大蔵省の醜聞/接待汚職
クレディ・スイス征伐/クレスベール

第三章 ヒルズ族鎮圧
セプテンバー・イレブン/中央青山の解体
ライブドア急襲/村上ファンドの崩壊

第四章 私書箱957号
佐渡賢一/不公正ファイナンス/消えた年金

第五章 不正会計の連鎖
札つき監査法人/オリンパスの飛ばし
東芝の悲劇/村上、再び/IFIAR

第六章 仮想通貨の衝撃
地場証券の閉塞/検査局廃止/コインチェック資金流出

終 章 二十年の総括
二つの潮流/ルパンと銭形

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