大蔵省「接待漬け」汚職事件 ガサ入れの瞬間

金融庁戦記 企業監視官・佐々木清隆の事件簿2
大鹿 靖明 プロフィール

いまガサ入れが始まりました

その年の大晦日、佐々木は朝日新聞の朝刊を見て「えーっ」と仰天した。一面トップにでかでかと「金融・政官癒着、3疑惑に焦点 大蔵検査官・道路公団理事への接待 東京地検」とあった。書き出しは「証券会社や銀行から大蔵官僚への高額接待などを調べている東京地検特捜部は年明けにも、贈収賄容疑での立件を目指して最高検、東京高検と詰めの協議に入る模様だ」とある。総会屋事件による相次ぐ逮捕と金融連鎖破綻のとどめは大蔵接待汚職だった。

金融監督庁発足を控え、同庁への移管が決まっていた大蔵省金融検査部は97年暮れ、本省から離れて、霞が関ビル8階に引っ越したばかりだった。佐々木が正月休み明けに出勤しても、隣席の谷内敏美課長補佐の姿はない。彼は銀行検査のスケジュールを組む責任者だった。

後になってわかったことだが、谷内補佐はこのとき連日のように検察の取り調べを受けていたらしかった。朝日が「立件」と報道した後、各紙が似たような前打ち報道をしたため、霞が関ビルのエレベーターホールにはマスコミの記者たちが詰めかけ、その数は日増しに増えていった。「いつ強制捜査があるかわからないので、もし地検がやってきたら、ただちに文書課、秘書課、広報室に一報を入れるように」。佐々木はそう命じられた。

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1月26日午後4時半、遂に東京地検特捜部の一行が来襲した。マスコミの記者たちはそれを同時中継し、隊列を組む検事たちの姿が日本列島に生放送された。金融検査部の呼び鈴が鳴って、佐々木が扉を開けると、サッと令状を見せられ、50人ぐらいの検事と検察事務官が押し入ってきた。この瞬間を待ち構えていたカメラマンが一斉にフラッシュを放った。佐々木が先導して検事たちを検査部長に案内した。急いで本省に連絡しようと自席の受話器を取ると、それを見とがめた女性の検察事務官からすかさず、「電話しないでください」と、きつい声で怒鳴られた。佐々木は「いまガサ入れが始まりました」と一報を告げるのが精いっぱいだった。

 

隣席の谷内課長補佐とノンキャリのトップである宮川検査官室長の2人がこの日、東京地検に逮捕された。同僚が「容疑者」になったせいか、谷内の隣席の、しかも同じ課長補佐の肩書の佐々木の席も入念に調べられた。名刺フォルダーと手帳が取り上げられ、疑わしそうに一枚、一枚めくられていく。ノーパンしゃぶしゃぶの名刺でも探していたのかもしれなかったが、ほとんどがOECD勤務時代に取り交わした海外の中央銀行や金融政策当局者の名刺を記念にとっておいたもので、英語やフランス語、ロシア語で書かれてある。親切心から「これは、こういう人ですよ」と横から説明したところ、かえって怪しまれ、すべて押収されてしまった。

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