「特定の染色体を持っているというだけで
『こういう人間にならなくてはいけない』
という思い込みや押しつけをなくしていきたい。」

『「男らしさ」はつらいよ』より

左から、『〈家父長制〉は無敵じゃない 日常からさぐるフェミニストの国際政治』シンシア・エンロー著、佐藤文香監訳(岩波書店/2020年)、『ヘヴィ あるアメリカ人の回想録』キエセ・レイモン著、山田文訳(里山社/2021年)、『トランスジェンダーの私がボクサーになるまで』トーマス・ページ・マクビー著、小林玲子訳(毎日新聞出版/2019年)、『日常生活に埋め込まれたマイクロアグレッション』デラルド・ウィン・スー著、マイクロアグレッション研究会訳(明石書店/2020年)、『「男らしさ」はつらいよ』ロバート・ウェッブ著、夏目大訳(双葉社/2021年)

1.世界を隈なく覆う、家父長制との対峙。

シリア内戦から何気ない日常まで、あらゆる場面に浸透する家父長制の強さと脆さを解く評論。「“日常”と分かちがたくつながり、見えづらいかたちでジェンダー不平等性を助長する家父長制。それが軍事主義にまでおし広げられてゆく実態を明らかにする。語られるのは海外の事例だが、近代合理性というイメージが先行する一方で、今なお父権的封建制の残滓が色濃く、右傾化著しい日本社会においてこそ必読」(磯前)

2.アメリカ黒人が受ける抑圧を微細に描く傑作。

黒人母子がアメリカで生きることの真実を語った半生記。「暴力とは、分かりやすい誰かによって単一的になされるのではなく、複雑な現実が交差することによって立ち現れている。人種差別が根強い社会の中で生き、公的/私的領域の両方において傷ついてゆく“ぼく”が“書いて、推敲する”ことによって価値ある生を求めてゆく――。単なる善悪では裁くことのできない、抑圧の多重構造を認識できる本」(磯前)

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3.転身を果たした著者の男性性を巡る葛藤。

30歳で女性から男性になった著者が、ボクシングを通して男らしさを考えるノンフィクション。「過酷なボクシングの世界へ飛び込み、自分自身の望む性と在り様へ果敢に向き合う勇気に感嘆する。しかし一方で、“男らしさ”とは何なのか、それぞれの“その性らしさ”と個人の“それぞれらしさ”、それが本人の主観だけではなく、社会の受け止め方で相対的に形成されることの難しさについて考えさせられる」(小林)

4.無意識の差別に自覚的になるために。

無自覚で見えづらいが大きな傷を残す差別=マイクロアグレッションのメカニズムを論じた文献。「差別とは、するもの/されるものにおいて、必ずしも自明であるとは限らない。常識、善意、丁寧さ、柔らかさ……数多の表象の裏に潜む、曖昧で漠然とした、無自覚な差別意識――マイクロアグレッション。自分ではない“誰か”とは、その想像とは異なるところで傷つき続ける“他者”にほかならない」(磯前)

5.ひとりの男性が考える自身の加害性と被害性。

英国の人気コメディアンが、自身の半生を振り返りつつ考える男性学。「“男らしさ”は問題だと思っていても、いつのまにかそれが内面化されてしまう。そして、他者だけでなく、自分も傷つけてしまう。日常と結びつく男性中心主義の困難に、ただ観念としてではなく、あくまでも個人の人生から臨む本書。男は内気ではいけない、男はルールに従うものだ、などの決めつけに抗い、他者と共生してゆくために」(磯前)