続発する金融事件を追いつづけた男の“デビュー戦”

金融庁戦記 企業監視官・佐々木清隆の事件簿1
まるで銭形警部のように「最新の金融犯罪」を追いつづけ、底なし沼のような腐食の連鎖に立ち向かった金融官僚の、挑戦の20年を追った『金融庁戦記 企業監視官・佐々木清隆の事件簿』から注目の章をピックアップして連続掲載!!

「強制調査に連れて行ってください」

佐々木清隆は霞が関の官庁街では、ちょっと知られた存在だった。

ジムで鍛えて胸板が厚く、肌は赤銅色に焼けている。シャツは派手なストライプ柄か、カラフルなものを着こなし、ピンクやパープルのネクタイを締める。頭髪は短く刈り込んだうえ、頭頂部だけ厚みを持たせた独特のスタイルである。

大蔵省(現財務省)Photo by iStock
 

地味な安物スーツに身を包み、服装に無頓着な男子が多い霞が関にあって、そのいでたちには明らかに主張がある。見た目はルパン三世か、それとも銭形警部か。中年男性ファッション誌「レオン」の表紙を飾るイタリア人タレント、パンツェッタ・ジローラモのようにも見え、ついた渾名は「ジローラモ」である。

「『ちょいワルおやじ』って、ずいぶんからかわれましたよ。でも、私が着ているのは、別にブランド品じゃないですよ。安物ですから」。そんな渾名がつくことを、さして嫌がる風でもない。黒衣に徹して目立つのを嫌う官僚の世界では、異色なのである。

佐々木が初めて「事件」を経験したのは、そんな浮かれた時代が暗転し始めた1990年7月、名古屋国税局総務課長に着任したときだった。

名古屋国税局のなかでも、強制調査を行う査察部は、同じ建物内にあっても他の部署とは隔絶し、よそからは窺い知れない秘密のベールに包まれていた。バブルの果てに巨額の脱税事件が相次ぎ、国税局の査察官を主人公にした映画「マルサの女」が大ヒットしたばかりだった。一度でいいから、あんな現場を体験してみたいと思っていた。

「好奇心もありました。しかし、それ以上に、税務署長と国税局総務課長を経験しながら現場に一度も足を踏み入れずに過ごして、次のポストに異動していいのだろうか、と。そっちの問題意識のほうが強かったのです」。

先輩の名古屋国税局査察部長に「強制調査に連れて行ってください」と願い出たところ、いまでは許されないかもしれないが、「国税査察官」の資格がないのにもかかわらず、OKが出た。大蔵省の外局の国税庁は、ほんの一握りの大蔵キャリアが要職を占めるが、彼ら大蔵キャリアは大多数の職員が携わる税務調査の現場の仕事に自らがかかわることはない。強制調査の現場に同行したがるキャリアは極めて珍しかった。

関連記事