2021.10.31

恐竜時代のホタルの光は何色だった? 

1億年前の光を蘇らせることに成功

夜のとばりに光るホタル。夏の夜の散歩道やキャンプ場などで、ホタルが光を発しているのを見つけて、嬉しくなったり、そばでじっと観察したりした経験はありませんか? 光る生き物は、なぜか私たちの心を惹きつけます。

その光に魅せられて日本で唯一、発光生物の基礎研究を専門に行うのが、大場裕一先生率いる中部大学応用生物科学科のラボ。発光生物の生態や光るメカニズムを解き明かしてきました。

さらに驚くことに、大場先生は、過去の進化の歴史をさかのぼり、1億年前のホタルの祖先が発する光を蘇らせることにも成功したそうです!

太古のホタルの光を一体どうやって再現したのでしょうか?その方法を伺いつつ、発光生物研究の魅力に触れてきました!

生物が光ったら面白い! 研究者として大事にする純粋な感情

——光る生き物というと、ホタルや深海魚が思いつきますが、発光生物なら何でも研究していらっしゃるのですか?

そうです。昆虫のほかに発光キノコや発光ミミズ、発光魚…等々、高等植物と四足の哺乳類を除くすべてで光る生物は見つかっています。例えば、意外と知られていませんが、桜えびも光るんですよ。

——桜えび!? 身近なのに初耳です。

桜えびの腹には発光器が並んでいるので、多分光るだろうと言われていました。でも漁師さんでも見た人はいなかったようです。調べてみると外部刺激ではなく、ホルモンが関係して光るので、漁のときに見られるというものでもなかったんです。

また、ホタルミミズという発光するミミズも実はどこにでもいるのですが、今までほどんど知られていませんでした。それには、誰も注目していなかったという理由があります。僕はこれまで、そういった知られざる発光生物の発光メカニズムや生態を探ってきました。

発光するサクラエビ(上)とホタルミミズ(下)。画像提供:大場先生

 ——ミミズにも光るものがいるんですね。誰も注目していなかったとは意外です。

発光生物の研究は1970〜80年代に盛んで、その後下火になってしまいました。理由として、まず発光生物の採取が大変なんです。また、生物発光研究の先駆者である下村脩先生が、発光オワンクラゲが持つ緑色蛍光タンパク質(GFP)を発見し、2008年にノーベル化学賞を受賞されました。GFPは生きたままの細胞内のたんぱく質を観察することに役立ち、生命科学分野の研究に欠かせないツールとなっています。そのため発光生物の研究は一気に実用的な方向に行き、純粋に発光生物の生態を調べる基礎研究への関心は薄れてしまいました。ただ、最近アメリカで面白い論文が出てきたりして、少し盛り上がってきています。

——そんな中で大場先生が発光生物の基礎研究を続けておられる理由は?

面白いからです。それに尽きます。

——とてもシンプルですね!

生き物の面白さですよね。どう光るか、なぜ光るか、光の役割は何なのか。分かってないことは多いのです。発光キノコの光る仕組みはだいたいわかったのですが、光る役割はまだわかっていませんし、チョウチンアンコウは、エサであるプランクトンを呼び寄せるために光を発していると言われていますが、見た人はいないんです。それに、生物の研究だけど、光を発するのは化学物質だということにも、面白さを感じます。

上から順に、ホタルジャコ、ミツマタヤリウオ、ヤコウタケ 画像提供:大場先生

恐竜時代のホタルは何色に光っていたのか、長年の興味を現実に

——1億年前、恐竜がいた時代のホタルの光を再現されたという発表はロマンを感じました。そもそもホタルはどうして光るのでしょうか?

ホタルの成虫は、光るものと光らないものに分かれますが、サナギや幼虫の段階ではみんな光ります。なぜ光るかと言うと、定説があって、捕食者への警告のためだと考えられています。ホタルは毒を持っているのですが、昆虫や爬虫類でも毒がありそうなものはまさに“毒々しい色”をしていますよね。ホタルも自分を食べると不味いということを、光を発してアピールしているのでしょう。色は深夜でもよく見える緑色です。

成虫になると、光の役割が変わります。おもに雌雄のコミュニケーションに使われています。成虫では光らない種類もいます。このことから、ホタルの発光は、もともとサナギから幼虫期からサナギの身を守るための役割が初めにあって、進化の過程で二次的に光をコミュニケーションにも使う種が現れたと考えられてきました。

——どういう仕組みで光っているのでしょうか。

ホタルをはじめとして発光生物が光るのは、「ルシフェラーゼ」という酵素と「ルシフェリン」という化学物質の反応によるものです。ホタルの場合はホタルルシフェラーゼ、ホタルルシフェリンと呼ばれます。ホタルの光は、オレンジ、黄緑、緑といくつかありますが、色はルシフェラーゼのアミノ酸配列の違いで決まります。

——どうして1億年前のホタルの光を再現しようと思ったのですか?

ホタルルシフェラーゼは生命工学や基礎医学の分野で幅広く活用できるため、世界中で研究され、たくさんの種の遺伝子情報が蓄積されていました。これを元に、ある研究手法を使えば、大昔のホタルルシフェラーゼのアミノ酸配列を再現できる、つまりホタルの祖先の光を再現できるのでは! と思いついたのです。もう10年以上前のことになります。

——進化をさかのぼって1億年前の遺伝子配列を再現……そんなことが可能なのですね……!

「祖先配列復元」とよばれる手法です。現在の生物が持っている遺伝子配列情報に基づいて過去の遺伝子配列を推定する方法で、遺伝子のアミノ酸配列から変異を計算し、祖先をさかのぼるテクニックです。進化生物学では以前から使われている方法で、例えば古代のヘモグロビンタンパク質を復元するとか、復元した酵素との結合の強さを調べるとか、そういったことが可能です。

現生のさまざまなホタルの仲間を集め、遺伝子からルシフェラーゼの設計図(アミノ酸配列)を集めて、設計図の変異がどのように起こってきたのかを計算(アミノ酸進化アルゴリズム)していくと、理論的にはホタルの祖先…1億年前の原始ホタルのルシフェラーゼの設計図を推定することができるのです。

提供:大場先生

——遺伝子情報として配列がわかったとして、それをどうやって実際に復元するのですか?

やはり実際に目で見てみたいですよね。数字を出すだけで終わってしまっては面白くないです。都合が良いことに、ホタルルシフェラーゼ遺伝子は大腸菌で発現させるだけで簡単に正しい酵素タンパク質を作製できます。つまり、大腸菌に発現させたタンパク質にホタルルシフェリンを加えれば、それがそのままそのホタルの発光色になるのです。

——なるほど、すごく見てみたくなります! どんな色だったのですか?

シミュレーションと同様の深い緑色でした。実際に試験管の中で緑に光ったときは感動しましたね。ルシフェラーゼを人工的に操作するとタンパク質構造が崩れ、赤色に寄って行く傾向があります。だから計算通りの色で光ったのは大成功でした。世界で初めて、失われた過去のワンシーンの一部を現実に蘇らせたのです。

左の黄色い光がゲンジボタルの光を試験管の中で再現したもの、右が1億年前のホタルの光を再現したもの。画像提供:大場先生

——ものすごい大きな成果ですね! 

成果はそれだけではありません。『ホタルが捕食者への警告のために獲得した発光が、のちに雌雄コミュニケーションの手段として多様化していった』というこれまで考えられてきた進化の道筋を裏付ける結果になりました。進化の分岐となる7ヶ所の年代でもどんな光を放っていたか調べたのですが、最初のホタルは緑色に光り、その後進化の課程で少しずつ発光色が異なるホタルが現れてきたというシナリオが見えました。でもやはり、祖先配列復元という方法を使って過去に存在していたものが蘇り、それを我々も目で見ることができたというのが何よりの成果だし、最高にエキサイティングです。

——今後この研究はどのように発展していきそうでしょうか

ちょっとチャレンジングではありますが、1億年前のルシフェラーゼからアミノ酸をランダムに変異させて、実際には起こらなかった進化の過程をシミュレーションしてみたいと考えています。アミノ酸のどんな変異がどんな発光色を生むのかが明らかになることで、ルシフェラーゼの本質にせまれるのではないかと思っています。他の発光生物のルシフェラーゼでも、同様の研究ができそうです。

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