世界94カ国を旅していた当時を振り返り、現地で出会った人たちの様子などを綴っていただいている旅作家・歩りえこさんのFRaUweb連載「世界94カ国で出会った男たち」。今回は、「センセーションシーカー」と呼ばれる男性と、カナダで出会ったときのエピソードをお伝えします。世界中を旅していた当時、幸せや充足感を感じることがなかったという歩さんですが、十数年が経ち、歩さんにもその男性にも様々な変化が訪れているそう。当時の出来事を振り返りつつ、現在の心境も綴っていただきました。

冷たい瞳になぜか惹きつけられた

世界94カ国を旅して「センセーションシーカー」と呼ばれる類いの人物とたくさん出会った。センセーションシーカーとは、感覚刺激追求型・感覚刺激欠乏者などと呼ばれることもある「常に新奇的体験に渇いており、それを求めて止まない者」という意味で、リスクを恐れずにスカイダイビングなどにチャレンジしたり、様々な新しい経験を追求していく傾向にある。

今までに味わったことのない感覚を追い求めるため、旅行や芸術、創作活動、恋愛などから刺激を求めたり、常識やありふれた普通のものよりも型にはまらない斬新なものや人物に惹かれたりする。恋愛ではジョーカーに惚れ込むハーレクインのように、ちょっと危険な雰囲気の人物に惹かれてしまうタイプの人もいる。

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私が出会った世界を旅する若者たちには、このような感覚を持ち、いつも新しい未知の経験を心から渇望し、追い求めて放浪している人が多かった。彼らの多くは会社員ではなく、「時間に縛られずに自分のペースで何かを創造する仕事を生業」にしながら各地を転々とするタイプが多く、ミュージシャン、写真家、文筆家、映像監督、ダンサー、大道芸人など、少し特殊な技能や感性を持って独自の感覚を頼りに世界中を渡り歩いて生きている人たちだった。

あちらこちらで大道芸人たちがパフォーマンスを繰り広げる。写真提供/歩りえこ

そんなセンセーションシーカーたちの中でも特に印象に残っている男性がいる。ハイチ出身カナダ国籍のミュージシャンを志す当時25歳のサミュエル(仮名)という男性だ

カナダ・モントリオールのユースホステルで彼を一目見た瞬間、心臓の奥をギュッと鷲掴みにされたような感覚がした。ゴツゴツとした骨格、鍛え上げられた筋肉、突き刺さるような鋭い眼光。「The男」という強烈なセックスアピールに反して、どこか儚げな憂いを漂わせる色男だ。

たまたま男女混合ドミトリーで同室になり、互いに自己紹介すると、間近で見る彼の瞳の奥は冷たく、笑っているのになぜか笑っていないように感じるのが妙に気になった。まるで鋭いナイフのような冷たい瞳に惹きつけられてしまう。