2021.10.25
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9.11テロ容疑者を襲った収容所での尋問 水責め、強制性交…なぜ男は闘い抜くことができたのか

『モーリタニアン 黒塗りの記録』

テロ容疑者の弁護士は“テロ支持者”と言われる

──映画の原作は、2015年に出版され、全米でベストセラーとなったモハメドゥ・スラヒの「手記」です。9.11の後、モーリタニアで身柄を拘束され、グアンタナモ収容所で地獄のような生活を送る彼の弁護を引き受けたナンシー(ジョディ・フォスター)が、真実を知りたいと、モハメドゥに書かせた「証言」をまとめたものですが、政府の検閲によって多くの部分が黒く塗りつぶされました。

まず、モーリタニア人のモハメドゥが、裁判を受けられないまま、アメリカ政府に14年間も拘束されていたという事実に、観た人はショックを受けるでしょう。

実は米国民の多くも知らされていませんが、モハメドゥさんの身に起きたことは氷山の一角で、同じ目にあった人たちがたくさんいるのです。いろんな国で捕まって、収容所に連れてこられて、裁判を受けられず拷問されて、国に戻れた人もいれば戻れなかった人もいます。

(C)2020 EROS INTERNATIONAL, PLC. ALL RIGHTS RESERVED.
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ここにはアメリカ政府の問題と同時に、グローバリズムによる構造的な問題が隠れています。映画の冒頭で、モハメドゥさんは、祖国のモーリタニアで突然、拘束されますよね。実は同じように、囚人たちの多くは外国で拘束されていたのです。報奨金を出すからと、アメリカ政府に雇われた外国人たちが、彼らの拘束を担いました。つまりアメリカ政府が直接手を下さなくても、外国で外国人に拘束させるシステムが出来上がっていた。大統領の「収容所閉鎖宣言」が状況を変えられなかった理由はここにあります。

ナンシーの、収容所を国外にしたのは看守を憲法から遠ざけたかったからだ、という台詞が出てきますね。一国の問題を、グローバリズムを抜きにして語ることができない時代に、私たちは生きているのです。

──ナンシーは弁護士としてモハメドゥの「不当な拘禁」を訴えますが、アメリカ社会のなかにそうした声はあがらなかったのでしょうか?

9.11の直後、アメリカでは「愛国者法」(テロリズムを阻止および防止するために必要な適切な手段を提供することによりアメリカを団結させ強化する法律)が議会を通過しました。なぜ人権侵害を引き起こすようなこんな法律が自由の国アメリカで通るのだろうと、あの時理解に苦しんだのを覚えています。実際国会議員などに取材を始めると、反対できない同調圧力があった事がわかりました。この映画には、印象的な台詞がいくつも出てくるのですが、その一つに、ジョディ・フォスターのこんな台詞があります。

<レイプ犯の弁護士を“レイプ魔”とか 殺人犯の弁護士を“人殺し”とは呼ばない
 なのにテロ容疑者の弁護士は“テロ支持者”と言われる>

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これはまさに、9.11後のアメリカを支配していた空気です。それだけ皆がテロの「恐怖」にとらわれていた。この映画にも何度も「恐怖」という言葉が出てきますが、恐怖は簡単に人を思考停止にするのを、あの時のアメリカで目の当たりにしました。近視眼的なことしか考えられなくなり、わかりやすい善悪を求めるようになるのです。