「森のようちえん」という幼児教育のスタイルを知っているだろうか。ざっくりいうならば、自然のなかで子どもたちを自由に遊ばせるスタイルの幼児教育・保育のムーブメントだ。この場合の自然には、里山、川、海、都市公園なども含まれる。自主保育で森のようちえんしている子育てサークルもあれば、認可幼稚園や保育園が森のようちえんすることもある。モンテッソーリ教育やシュタイナー教育、イエナプラン教育などと並び称され、改めて注目を集めているのだ。

この短期連載では、『ルポ森のようちえん』を上梓した教育ジャーナリストのおおたとしまささんが、本書から抜粋の上再構成、東は埼玉県から西は鳥取県まで、3つの森のようちえんをレポートする。第1回「「森のようちえん」が大注目の理由――泥遊びや火遊びは子どもを「人間」にする」では、田んぼをようちえんにした三重県「森の風こども園」をご紹介した。第2回は、埼玉県の「花の森こども園」におじゃまする。そこでおおたさんも感じた、幼児期の教育にもっとも大切なこととは。

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朝の会のBGMは小鳥の声とヤギのむしゃむしゃ

園長の葭田(よしだ)あきこさんと、放し飼いになっている二匹のヤギがお出迎えしてくれました。スミレとリイサというそうです。園庭には大量の薪が積まれています。薪ストーブの燃料として、園長自ら、近くの山の木を切り出して、薪割りしたものです。
 
手入れの行き届いた園庭のその先には、これまた手入れの行き届いた美しい森が続いています。もともとは荒れ放題の森でしたが、園長たちが笹を刈り、ゴミを拾い、手入れしたそうです。園庭との境界線は子どもでも簡単に乗り越えられる低い石垣。これはもともとあったものでしょう。

撮影/おおたとしまさ

森に入るのは自由ですが、石垣を越えるときに「おじゃまします」と一礼するのが決まりです。森の花を摘んだり、木の実を拾ったりするときは、「ひとつください」と言います。森を出るときは「おじゃましました」。

森の脇の斜面を下ると川が流れています。川原で遊んだり、夏には泳いだりもできます。園舎はできたばかり。でも、新しさ以上に、佇まいの美しさが際立ちます。園庭からは園舎と森と青い空しか見えません。絵本の世界が現実になったようなようちえんです。

埼玉県秩父市にある「花の森こども園」(以下、花の森)に来ています。
 
10時過ぎに園庭にある丸太に16人の園児が腰かけて、朝の会が始まりました。空や雲を見上げてみたり、耳を澄ましてウグイスの歌声や風の音を聞いてみたり、お当番さんが一人一人の名前を呼んで挨拶したり。ヤギたちも草を食みながら参加しています。
 
朝の会が終わると、子どもたちはそれぞれ「自らに由る遊び」を始めます。「自由遊び」ではなくわざわざそう呼ぶところにこの園のこだわりがあります。園庭には丸太やドラム缶が転がっているだけで、遊具らしい遊具はありません。砂場的なところでトンネル掘りをする子もいれば、ヤギに葉っぱを取ってあげる子もいれば、ドロケイで駆け回る子たちもいます。
 
1歳の女の子は、おにいさんおねえさんたちの水遊びでできた泥の川に、恐る恐る、靴のまま足を踏み入れました。靴の中に水が染み込んできたのでしょう。一瞬微妙な表情をしましたが、靴下までしっかり水が染み渡ると、幸せいっぱいの表情で泥水の中をじゃぶじゃぶと何往復もしていました。
 
さらにはおにいさんおねえさんたちが使っている水道から出る水に触れただけで「きゃー」と歓喜の声を上げます。何をやっても怒られない、自分の思うがままに使える。それがこんなに楽しいのです。
 
先生たちは、どこからか長い竹をもってきて物干し竿をつくっていたり、子どもたちが描いた濡らし絵の画用紙を何かに貼り付けるためにはさみでカットしていたり、それぞれの作業をしながら子どもたちを見守ります。先生たちが少しでも大きな声を張り上げる場面は、私はまったく目にしませんでした。