ライブって不思議な空間なんです

ピアノ自体も好きだが、自分の演奏を人に聴いてもらうことはもっと好きだ。それは、その時空間にかけがえのない“一期一会”があるからなのだとか。

「ライブって、不思議な空間なんです。まったく同じ顔ぶれが二度とない。たとえばブルーノート・ニューヨークなら、もちろんCDを買ってくださったり、前評判を聞きつけてだったり、前回ライブにきてくださったりする方の他に、観光で足を運んで、そこにたまたま私が出演していた、なんてこともある。だから、そこで初めましてっていうお客様も少なくないんです。つまりそれは、意図せず運命共同体になった人たちで、その人たちと一緒に同じ空間で、同じ時間を過ごす中、自分の音楽が響くかどうかが試される。それは、すごく面白い体験なんです。毎回必ず新しい発見がある」

2019年11月17日、サントリーホール (ソロ公演) Photo by 広瀬誠
-AD-

15年ほど前になるだろうか。彼女は、高齢のジャズプレーヤーとセッションするときに、「人生を長く歩んできた人にしか出せない音がある」と話していたことがある。20代だった彼女が40代になって、自身も、今しか出せない音があると感じているのだろうか。最後に、自身の成熟への実感について聞いてみた。

「音というのは、感情がそのまま外に出るものなので、昔出せなかった音が出せるようになるというのは、ジャズに限らず、すべてのミュージシャンに言えることだと思います。ただ、何かを得た分、何かを失うこともある。それは結局、10代には10代にしか出せない音が、20代には20代、30代には30代、40代には40代の音があるということ。誰しも、そのときにしか出せない音があるから、音楽は一期一会で、だから常に新鮮でいられる。そのときどきで、いかに自分の音と真面目に向かい合うか。それでその先の自分が決まってくると思うので、奢るのでも卑下するのでもなく、ただその日その場所で自分ができることを、一生懸命やるだけです」

上原ひろみ ザ・ピアノ・クインテット「シルヴァー・ライニング・スイート
ブルーノート東京でのライブ企画「SAVE LIVE MUSIC」の第2弾として編成された、新日本フィルハーモニー交響楽団のコンサート・マスター西江辰郎を中心とする弦楽四重奏との共演。2020年のコロナ禍の自粛期間中に書き下ろした4パートからなる組曲「シルヴァー・ライニング・スイート」を筆頭に、自身のSNS企画「One Minute Portrait」で発表した楽曲、他に過去のオリジナル曲をこのプロジェクトのために新たに編曲し収録。ユニバーサルミュージックより発売中