音楽業界全体が路頭に迷うかもしれない

ピアノを弾くことは、上原さんにとって、ご飯を食べることや寝ることと同じ。「生きる上でとても日常的な行為」だという。ただ、ピアノを弾いていられればそれで満足なわけではない。彼女が取り憑かれているのは、音楽を通して人と繋がること。旅をしながら、観衆の前でピアノを弾くこともが、最高に楽しいと思える瞬間だった。その機会がごっそり奪われてしまったのだ。

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「どんなふうに自分の音楽に対する情熱をリリースしていけばいいのか、途方に暮れました。エネルギーは溜まっていく一方なのに、それを発散する場所がなくなってしまった。コロナ禍で、業界全体が無力感というのは、個人的な事情で、自分のライブをキャンセルした、というのとは訳が違う。自分の都合で仕事をキャンセルせざるを得ない状況は、長い人生では、ミュージシャン誰もが経験することだと思う。でも、音楽業界全体が、路頭に迷うかもしれないなんて。本当にまずいことになったなと思いました」

そんな中で、上原さんが日本公演の際に世話になっていたブルーノート東京が、海外アーティストが来日できなくなったために、長いことクローズしていると聞いた。キャンセルが出た分を少しでも穴埋めできないかと思い提案したのが、「SAVE LIVE MUSIC」というライブ企画だった。
第1弾として、2020年8月から9月にかけて、16日間のソロライブを敢行。数ヵ月ぶりに、青山のブルーノートに活気が戻った。上原さんも、「すごく達成感がありました」という。

2020年9月12日、上原ひろみ ソロ・ピアノ Since 2003 at ブルーノート東京  Photo by 衣斐誠

「休んでいたブルーノートを開けることができたこと。客席も50%未満しか使用できないない小さな規模でも、周りの人たちが好きな音楽の仕事に戻ることができたこと。周りの人たちが働ける環境を16日間という短い期間でしたが、作り出すお手伝いができた。音楽を続けていくことの大切さを再認識しました」