田中理事長の“側近”が逮捕された「日大背任事件」、その“深層”を読み解く

事件の焦点と責任の行方は
伊藤 博敏 プロフィール

「知らなかった」は通るのだろうか

日本大学事業部を10年1月に設立したのは、管財担当の大学幹部が持つ権限を、学外の組織に委ね、それを田中理事長が掌握するシステムを確立したかったのだろう。だから、アメリカンフットボール部出身で田中理事長と同じ体育会気質を持ち、かつ事業経験も豊富な井ノ口氏容疑者を責任者にした。この疑惑を指摘された過去と日本大学事業部設立の経緯を思えば、田中理事長の「知らなかった」は通るのだろうか。

しかも田中理事長は、一度、切った井ノ口容疑者を元に戻している。

危険タックル問題で記者会見を開かず、いっさい口をつぐんできた田中理事長だが、18年8月3日、「学生ファーストの理念に立ち返って」と題して、初めて大学のホームページに声明文を出した。

<日大において学生ファーストの精神が見失われていた>という第三者委員会の報告書の言葉に鋭い痛みを受けたといい、その反省のうえに立って、今後の大学運営を行なっていくという「決意」は“月並み”だったが、井ノ口容疑者の行為に対する怒りは痛烈で、そこは興味深かった。

<報告書の中では、あるまじきことか、元理事でアメリカンフットボール部のOBによる口封じがあったことが示されています。いかなる理由があろうとも、断じて許されないことです。なぜこんな卑劣な行為があったのか、驚愕と激しい怒りがこみ上げました>

井ノ口容疑者は、タックルした選手に「(隠蔽に同意すれば)私が、大学はもちろん、一生面倒を見る。そうでなかったら日大が総力をあげて潰しに行く」という言葉を吐いたという。(この時に理事を辞任)

 

田中理事長の怒りも当然だが、それが言葉だけであるのはすぐに判明する。井ノ口容疑者は、19年12月、日本大学事業部取締役に付き、20年9月、日大理事に復帰した。ほとぼりが覚めるのを待っていた、といって差し支えない。

井ノ口は、余人をもって代えがたい。自分の考えを理解し、組織の中で動いてくれる人間が必要だーーと考えたのだろうか。

検察は、事件の本質が5期、13年も理事長職にあり、側近で回りを固める田中理事長の「ガバナンスなきワンマン支配」にあることを知っている。渡ったとされる3000万円を含め、「知らなかった」で済ませるつもりはないだろう。

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