マラソンが楽になる「呼吸法」は存在するのか?

呼吸を科学する—シリーズ第2回
石田 浩司 プロフィール

同調が起こる物理的要因とは!?

次に、物理的要因ですが、これも2つあります。

1つは、運動を行っているさいに、体が上下すると、横隔膜やそのまわりに付着している内臓が、それによって受動的に上下に動かされ、空気の出入りが起こるという「内臓ポジション説」というものです。

例えば、体が上方に移動する時は、横隔膜は慣性でその位置にとどまろうとするので、横隔膜が下がり、空気が肺に入ります。逆に、下方に体が移動する時は、慣性によって横隔膜が上にとどまろうとするため、空気を押し出します。とくに、ランニングなどの走行時は、体の上下動があるため、この影響があるといえるでしょう。また、四足動物では、進行方向と横隔膜の方向が一致するので、この影響は強くなります。

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腹筋は体幹を支える筋として上体の固定に貢献し、走行中の着地(接地)時に反射的に収縮することで、接地の衝撃を和らげ、体を固定し、体のふらつきを抑えます。同時に、腹筋は補助呼吸筋(呼気筋)としても働くので、収縮すると、空気が勝手に出ていきます。

足が地面に着いた時に腹筋が反射的に収縮しますが、そのタイミングで息を吸うと、横隔膜が収縮して下がろうとするのと、腹筋が収縮して横隔膜を押し上げようとする力が打ち消しあい、うまく吸気ができません。

そこで、運動のリズムと呼吸が同調すれば、むだがなく一粒(腹筋収縮)で二度(体幹固定と呼気)おいしくなります。

同調が起こると運動は楽になるのか?

さて、同調すれば運動は楽になるのでしょうか?

これを明らかにするためには、酸素摂取量を測定します。同じ運動で比較した場合、同調が発生した時に、もし酸素摂取量が減っていれば、エネルギーが節約できるため運動が楽になる可能性があります。

これまでの研究で、同一強度の運動において、強制的に同調させた場合と、同調させない場合とを比較したものがいくつかあります。

しかし、酸素摂取量が低下するという研究と、変わらないという研究に分かれているため、まだはっきりした結論は出ていません。

酸素摂取量が減る要因として、物理的要因のメカニズムの関与が示唆されています。先ほど紹介したように、内臓の上下動と横隔膜の動きが一致する、もしくは、着地で腹筋に力を入れた時に呼気をすれば、呼吸筋はあまり使わなくてもすむはずです。そのため、呼吸筋の代謝自体が減少するため、酸素摂取量が少なくすむということです。

しかし、ちょっと待ってください。人間の歩行や走行、自転車漕ぎは左右対称、左右交互に行われます。もし右足着地の時に息を吐くことで得しても、左足着地では息を吸わなければなりません。結局、そこで損することになり、差し引きで変わらないということになります。これは、内臓ポジション説でも同じです。

ただし、動物の場合、鳥は両方の羽根を同時に振り、四足動物も速く駆けるときは前後2脚ずつを動かすので、左右同時動作となります。そのため、1:1の比率で呼吸するのがいちばん効率的なのです。

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もし、同調によって呼吸数が少なくなるとしたら、呼吸筋の仕事が減り、体全体としての酸素摂取量は少なくすみます。ただし、同調で呼吸数が多くなる場合もあるので、同調の影響がなくなるかもしれません。

我々の研究室では、同調と非同調条件で呼吸数を同じにして、純粋に同調による代謝への影響を見る実験を行ったことがあります。

その結果は、呼吸数、酸素摂取量、換気の効率を示す換気当量(毎分換気量÷酸素摂取量)とも両条件で差は見られず、同調の効果は認められないというものでした。ただし、同調したことによって、呼吸困難感が減ることはたしかなようです。

とくに負荷が大きい、激しい運動時には、神経性要因による入力も大きいため、自然に(体の要求にまかせて)呼吸していれば同調は発生しやすくなります。

逆に、その時に無理に同調をさせないようにすると、呼吸中枢を刺激するのに呼吸できないというミスマッチが起こるため、呼吸困難感がより強くなってしまいます。

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