マラソンが楽になる「呼吸法」は存在するのか?

呼吸を科学する—シリーズ第2回
小学校の長距離走の授業で、先生から「腕振りに合わせて、スースー、ハッハッと呼吸しましょう」と教わった人がいるのではないでしょうか。では、実際にこれで走ると呼吸は楽になるのでしょうか? 新刊『呼吸の科学』から、この運動と呼吸の関係について科学的に考えていきたいと思います。

運動と呼吸が同調するのは人間だけじゃない!

実は、人を含め動物には、呼吸数や呼吸のリズムが運動のテンポの影響を受け、呼吸が運動テンポに引き込まれる、「エントレインメント」(Entrainment)という現象が存在します。呼吸リズムと運動のテンポが一定期間、決まった比率で同期する場合を、「運動-呼吸同調」(ここでは単に「同調」とします)と呼んでいます。

この同調は歩行、ランニング、自転車運動、ボート漕ぎ運動などの周期運動で見られます。

同調発生の判定基準は、研究者によって多少異なりますが、

  • 〈1〉呼吸周期の安定(呼吸数が一定)。
  • 〈2〉運動と呼吸周期の間の位相差(ズレ)が一定(例:いつも着地の0.3秒後に呼気が始まる、など)。
  • 〈3〉運動と呼吸の同調の比率(同調比)が整数か半整数倍(1:1、2:1、3:2など)になる。また、このとき呼吸の周期のほうが遅い。

この〈1〉から〈3〉が一定呼吸数(4〜20呼吸)持続した場合を「同調」したと判定します。

【写真】一定呼吸数が持続した場合を「同調」というphoto by gettyimages

鳥や四足動物では、たいてい1:1の同調比になりますが、ヒトでは2:1が、もっとも多く見られ、負荷やスピードが変われば同調比も変わります。

また、ある条件での運動の全時間に対する、同調のあった合計の時間の割合を、「同調発生率」といいます。同調がよく起こる(発生率が高い)条件としては、低強度より高強度の運動のほうが、また、運動のテンポが遅いものよりも速いもののほうが、起こりやすいことがわかっています。

さらに、運動のピッチをメトロノームの音や光点滅などの「On-Off刺激」で示した場合や、自転車運動より走運動のほうが、また、運動の非経験者よりも経験者のほうが起こりやすいという特徴もあります。また、男女における差もあり、男性では負荷が重くなると同調が発生しやすくなるのに対し、女性では変わらないという違いもあります。

ただし、この発生率は個人差が大きく、ほとんど同調しない人がいる一方、80%近く同調する人もいます。

同調はなぜ起こるのか?

では、この同調が起こるメカニズムはどのような仕組みによるのでしょうか?

これには、大きく神経性の要因と物理的要因があります。

神経性の要因ですが、リズミカルな運動によって生じる、セントラルコマンドや末梢神経反射による呼吸中枢への入力信号は、運動のテンポに合わせたリズミカルなものになります。呼吸中枢がリズミカルに刺激されるので、呼吸出力もそれに合わせてリズミカルな呼吸になると考えられます。

また、おもしろいことに、同調にも「認知機能」が関与していることが示唆されています。運動選手が同調しやすいのは、長年のトレーニングでそれが楽だと学習しているからということです。

【写真】同調にも「認知機能」が関与している?photo by gettyimages

同調に末梢神経反射が関係する根拠として、受動的運動でも同調が起こるとする報告があります。この研究では、睡眠中に対象者の脚を受動的に動かし、同調が発生するかも検討しており、この結果では、睡眠時には同調が起こりませんでした。つまり、覚醒している時、すなわち認知機能が働いている時に同調は起こり、睡眠時には同調が起こらないということになり、同調には認知機能が関与することを示しています。

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