ある日、大学生から一通のメールが

他の作家さんはどうなんだろうと気になるけれど、僕は世間に発表した後の作品を自分で読み返すことがほとんど無い
もちろん発表する前は、「伝えたいことが本当にこの形で伝わるだろうか」と何度も読み返すのだけど、いざ自分の手を離れて見知らぬ誰かに託されれば、次の瞬間から「今度は何を書こう」と、もう別の話を考え始めている。

特に単行本の場合は、書き残していることはないか、もっと良い言い回しがあるんじゃないかと、制作過程で繰り返し何度も目を通しているから“読み飽きている”ということもあるし、刊行後に読み返したら読み返したで「やっぱりここは書き換えればよかった……」という箇所が必ず見つかってしまい、後悔したところで取り返しがつかないので、“そもそも読み返したくない”という気持ちでもある。

2018年に講談社から刊行したエッセイ集『ゲイだけど質問ある?』もそんな1冊。
正直、ヒットには恵まれなかったのだけど、全国の自治体や学校の図書館に置いてもらっているという話をよく耳にする。
アメリカのハーバードやスタンフォードなどの大学図書館にも置かれていると、現地の友人が教えてくれた。セクシュアルマイノリティについての初歩的な知識を、手に取りやすくカジュアルに学べる書籍の例として、海を渡ったらしい。

そんな『ゲイだけど質問ある?』を読んでくれたという大学生から、突然メールが届いた。

写真提供/鈴掛真
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報道番組への出演依頼がなぜ僕に?

メールの内容は、大学3年生である井上実那さんがインターンを務めているネットニュース報道番組『ニューズ・オプエド』への出演依頼だった。

ニューズ・オプエドは、ニューヨークタイムズ東京支局の元取材記者でジャーナリストの上杉隆さんが2014年に立ち上げた、日本初のインターネットでの生放送ニュース番組である。
これまで堀江貴文さんやロンドンブーツ1号2号の田村淳さんなど、そうそうたる面々がゲストとして出演してきた。

そんな番組に、なぜ僕が?

メールによると、かつて彼女がセクシュアリティについて考える機会があったとき、彼女のお兄さんが『ゲイだけど質問ある?』を薦めてくれたことがあり、兄妹の愛読書にしてくれていたらしい。
ニューズ・オプエドの制作スタッフのインターンを務める最終日に向けて、上杉さんから「特集の企画を自分で考えてみないか?」と提案され、「それなら鈴掛真さんに出演してほしい」と思いついてくれたとのことだった。

なんと光栄な機会。僕は「そういうことなら、是非」と出演を快諾した。
けれど、この時点では「実感がない」というのが正直な感想だった。
もう3年も前に書いた本だから自分でも細かい内容を忘れかけていたし、コロナ禍によって在宅で仕事をしていてほとんど外出していないから、外の世界で起こっている出来事に現実味を感じなくなってしまったという変化が大きい。

リモートでの出演も可能と伺っていたのだけど、ニューズ・オプエドは僕の自宅からさほど遠くない都内のスタジオから生放送されており、スタジオ内の感染症対策に取り組まれているとのことで、僕は久々に外の世界へ飛び出し、スタジオから出演させてもらうことにした。