森岡: 1万円弱のプライスで、その場で度数を合わせてさくっと買える、ZOFFやJINSの登場は大きかったですね。高品質な商品を手頃な価格で購入できるユニクロ的なロープライスブームが業界に風穴を開けたきっかけだと思います。それまでのアイウェアは3万円以上するような高級品で、少しいいレンズを選ぶと5万は軽く超えていましたからね。アイウェアは高級品の一つでした。
中野:クオリティを担保したお手頃プライスの登場は大きいですよね。
森岡:そのおかげで、今は、アイウェアは2個持ち3個持ち、のような人が増えてきていますからね。アイウェアは目が悪い人だけのアイテムだったのがスタイル作りのアイテムにもなり、このようなブランドの登場により市場を大きく広げました。
――今はファッション小物として買う方のほうが多い印象です。
森岡:今は若い世代が気軽にアイウェアを取り入れるようになった。久々に伊達眼鏡ブームも数年前からきています。鯖江でもフェアプライスの考え方で、クオリティを落とさず値段に対してもっといいものをとトライし始めているところが出てきて、そうすると、さらに市場は盛り上がっていきますね。
――クオリティが維持されているのは大きいですね。アイウェアは日本の技術の凝縮であり、世界に誇れる部分ですね。
森岡:それはありますよね。小さなパーツに細工をする、そういうことが日本人は得意なのだと思います。たとえば、メタルフレームは細くて強く、しかも、壊れにくいような工夫がされている。シャルマン(福井県鯖江市の眼鏡フレームメーカー)はかけ心地を追求した結果チタンに特化した。非常に評価できる取り組みをされています。
中野:チタンは一つの戦力ですね。チタンならシャルマンと言わせる。
――日本のアイウェアを語る上で鯖江市の存在はハズせません。たとえば、ZOFFも日本製の特殊素材と鯖江ならではの優れた技術・品質を凝縮した「MADE IN JAPAN」シリーズを、JINSでも高品質&高機能シリーズ「Made in Japan」を鯖江で作っています。
中野:鯖江市は元々、農閑期の副業としてアイウェア産業を始めました。冬の間、狭いところでできるからと始めた副業が、今や世界に向けて、日本を代表する産業になった。その発展過程も面白いなと思います。
森岡:昔はそれぞれがパーツ屋でしたよね。すべてを自社で作るオートクチュール的な会社はあまりなかったけれど、最近はゼロベースですべてを自社で作るところが増えてきた。それはつまり、品質とデザインがよくなってきていることなのだと思います。
――今では海外のアイウェアブランドが鯖江市にフレームを発注する時代ですからね。
2017年にスタートした「10 eyevan(テン アイヴァン)」という、アイヴァン 7285よりさらにハイエンドな新レーベルも鯖江の技術で成り立っているそうです。

「美しい道具」をコンセプトとして、純粋に美しいと思えるデザインと機能性を具現化したアイウェア 「10 eyevan」。3年以上の歳月をかけて選ばれた10個のオリジナルパーツで構成され、それが成り立つのは鯖江の技術があってこそ。 2021年春にリリースしたセルロイドシリーズの新しいコレクションFAT RIM。太めのフレームデザインはインパクトが強い分、コーディネイトの良いアクセントになり、小顔効果にも期待できる。光沢のあるセルロイドは高級感があり、カジュアルな印象になりすぎず、大人の女性に合うアイウェア。No.7IIIFR ¥66000/10 EYEVAN 

森岡:今の時代、鯖江の物作りはクールかつ世界基準なのではないですか。デニムの産地として有名な岡山県と一緒で、海外の最先端ブランドがデニムを岡山県に発注するように、鯖江に発注していますからね。そういう意味では、技術は間違いなく世界一なんですよ。思うにアイウェアは靴と一緒で、デザインがかっこよくても、足に合わなかったら痛くて歩けません。アイウェアも靴と同じで機能を優先すべきだと思いますね。小さな世界の中でのプロダクツとして、圧倒的に日本のアイウェアの品質は素晴らしいと感じます。
――鯖江のアイウェアは一つ作るのにかなりの人数の職人の手仕事が入り、これは他国にはない細やかさだそうです。
森岡:正直、海外のものは日本人の顔に調整でフィットさせる範囲を超えているものが多数あります。骨格や目や鼻のバランスが違いますからね。たとえば、海外の方は目と眉毛の間の幅が短いけれど、日本人はそれに比べ長い。そうすると、サングラスをかけたとき海外の方は眉毛が隠れるけれど、日本人の場合は隠れません。額と頬骨の角度の違いもあって、海外物だと、日本人の顔には完璧にフィットしないことが多いんです。
――機能性重視でデザインが主張しないのが日本の特徴、というのがすべてのブランドに感じられます。

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森岡:機能ありきでそこにデザインなどの要素が加わる、それは日本のものづくりの基本ですよね。アイウェアに関しては本当によく使う言葉ですけれど、神は細部に宿る、そういう世界なのだと思います。
中野:指摘されないと気づかないくらい、細部に配慮が行き届いている。だからこそ、強くデザインを主張しなくても完成度が高く見え、製品のたたずまいから品格が感じられるのでしょう。日本人が理想とする人間像を投影しているかのようです。
――アイウェアは精密機械だからこそ、繊細さが不可欠。それはやはり日本人の国民性なのでしょうね。

Lesson4 アイウェアは「似合う」ではなく「愛でるもの」

森岡:スタイリスト的に言うと、「僕には、どのようなアイウェアが似合いますか?」とよく聞かれますが、じつはこれほど困ることはありません。仕事で掛ける眼鏡は別として、プライベート用だと、まずは気になるものを全部かけてみてください。そしてその中でなんだか好きというものを選んでみてはどうですかと言っています。日本人は基本的にはベーシックなものが合うと思います。ただアイウェアは、顔に似合うだけではなく、あえて、アンバランスな似合わないものを選び個性とするのも一つの手。自分ならではの楽しみ方ではないでしょうか。