日頃何気なく接しているエンターテインメントが、考え方に影響を与えることもあります。影響力の大きいエンタメ作品は、時代ごとにジェンダー観をどう反映してきたのでしょうか。

今回、注目するのは「音楽」。政治と音楽が結びつくことがタブー視されてきた日本でも、欧米のように少しずつ社会的なメッセージ性のある音楽が増えてきているという。音楽ジャーナリストの高橋芳朗さんと音楽ライターの渡辺志保さんに、世界のフェミニズム音楽の流れを解説してもらった。

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音楽を通して、自分の姿勢を表明する。
それが今後のスタンダード。

アレサ・フランクリン
1960年代から活躍したアメリカのソウルシンガー。2018年没。代表曲「Respect」は、ソウルシンガー、オーティス・レディングのカバー。「I Say a Little Prayer」などヒット曲は数知れず。今年5月には、ロサンゼルスの教会で行われたライブを映画化した「アメイジング・グレイス/アレサ・フランクリン」が公開された。

渡辺 欧米ではもともと女性の権利を歌で主張することは珍しくありませんでした。パイオニアの一人というと?

高橋 ソウルの女王アレサ・フランクリンでしょう。1967年の「Respect」はウーマン・リブ運動にとどまらず、人種差別撤廃を掲げる公民権運動ともリンクして新時代のアンセムになりました。その後71年にはオーストラリアのシンガー、ヘレン・レディの女性賛歌「I am Woman」が全米1位を記録しています。

渡辺 多様な女性が、ジャンルを超えてそれぞれのメッセージを歌に込めていたのですね。

高橋 ロック、ソウル、ファンク、ディスコ、ジャズ。フェミニズムはさまざまなジャンルで歌われています。保守的なイメージが強いカントリーミュージックでも、シンガーのロレッタ・リンが75年に「The Pill」を発表。当時からアメリカの一部の州では中絶権が制限されていましたが、彼女は避妊薬を自由に使う権利をシニカルな歌詞に乗せて訴えました。

渡辺 中絶の問題は宗教観も絡んでいて、アメリカでは永遠の課題です。現在進行形の問題とも言えますね。

高橋 70年代以降も時代ごとにアイコニックな女性シンガーやグループが次々と登場します。

渡辺 70年代にはダイアナ・ロスのソロ活動が盛んに。自分のスタイルを音楽を通して表現することが当たり前になっていきました。

高橋 80年代は、やはりマドンナ。性を堂々と謳歌する彼女の登場はあまりに衝撃的でした。