東京から京都に移り住んだジャーナリストの秋尾沙戸子さんと、秋尾さんを京都の師とあおぐ漫画家の東村アキコさんの連載「アキオとアキコの京都女磨き」
約1年にわたってお届けしてきた本連載も、あっという間に今回が最終回。ラストは毎年10月22日に行われている「鞍馬の火祭」をテーマにお届けします。

今年は昨年に引き続き、新型コロナウイルスの影響で開催中止と告知されている本行事ですが、今回は初めて参加した時の秋尾さんの“試練に満ちた体験談”をお届け。この経験を経て、秋尾さんが救われたという「京都ならではの物事の捉え方」とは? 

京都で暮らし、この時代まで大切に引き継がれてきた伝統行事にふれるなかで、得られた経験や感謝を綴っていただきました。

記事最後に掲載の漫画家・東村アキコさん本連載書き下ろしイラストも必見!

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「鞍馬山に不用意に足を踏み入れるな」
と言われたけれど……

「火焚祭」で始まったこの連載も、これが最終回。締めくくりは「鞍馬の火祭」。古都に火の祭が多いのも不思議だけれど、私自身も、どうやら炎に萌えるらしい。

秋になると店頭に並ぶ“○○易断”などによる翌年の「暦」本。東京で毎年眺めながら、ずっと気になっていたのが、「京都鞍馬の火祭」。暦とともに日本各地の代表的行事が書かれているそれら書籍には10月22日の欄に必ず記載されています。

鞍馬といえば、牛若丸(源義経)が天狗から秘儀を習った場所。子どものころから地名だけは耳に馴染んでいました。そこに火祭という2文字がかけ合わさったことに、心惹かれたのです。テレビで一瞬、その光景を目にしたことも私の好奇心をくすぐりました。闇夜の中、男たちが燃え盛る松明を担いで練り歩く光景をこの目で見てみたい――。妄想がふくらむばかりです。

例年の鞍馬火祭の様子。撮影:田中一郎

ならば、京都に来て真っ先に鞍馬に出向いたかといえば、さにあらず。理由のひとつは、超過密な人混みでした。お祭の舞台は、鞍馬山の麓にある小さな集落。狭い土地に7千人もの観光客が押し寄せるのです。身動きもとれず、もみくちゃにされるのは明らか。また、現地へのアクセスも難儀なのです。周辺道路の交通が規制され、基本は電車での移動に限られます。しかも、同じ日に朝から洛中で行われる「時代祭」の行列を見終えると体力的にも疲れ果ててしまうため、そこから夜はるばる電車に乗って鞍馬に移る余力がなくなるのでした。

さらなる理由がもうひとつ。「鞍馬山には不用意に足を踏み入れるな」と止めた人がいて、躊躇したのです。彼が言うには、洛北の奥深い山中にある鞍馬山は山伏が修行をした霊山だから、私のように無防備な女性が安易に訪れるべきではないというわけです。どこの山でも、山そのものは神聖な空間で恐れ多く、登山経験のない私は一人での入山を避けるべきだとは心得ていました。ましてや鞍馬寺の奥の院は「魔王殿」と名付けられ、中途半端な気持ちで入るなと伝えているわけです。とはいえ、火祭は、麓の里にある由岐神社で斎行されるお祭り。土地勘のある人に随行すれば大丈夫と信じ、密かにチャンスを狙っていた私でした。

ある調査グループに同行できると決まったのが4年前。ようやく念願達成と張り切っていたまさにその年、しかし、まさかの超大型台風が京都を直撃。人生初の「鞍馬火祭」で、とんでもない試練が待っていたのです。