世界的経済学者がSF小説という突拍子もない形式で訴えたかったこと

資本主義に代わる別の選択肢は何か
ギリシャ生まれの型破りな経済学者であり、現職の政治家でもあるヤニス・バルファキス。彼の新作『クソったれ資本主義が倒れたあとの、もう一つの世界』の魅力に迫る連載をお届けする。2021年5月にバルファキスが受けたインタビューのなかから、彼の新作にまつわるさまざまな話題や疑問、ポスト資本主義社会のキーワード、あるいは資本主義を倒し、オルタナティブな世界(資本主義に代わる別の選択肢)を実現するための方法について紹介していこう。
第1回は、「なぜバルファキスは、ポスト資本主義社会を描くために、SF小説という未知の冒険に乗り出したのか」について。

「資本主義に代わる別の選択肢は何か」に答える義務

本書の大きな魅力のひとつであり、基本的な疑問とでもいえるのが、これまでおもに硬い経済学の本を執筆してきたバルファキスが、「なぜ小説を、しかもなぜSF小説というかたちを選んだのか」という点だろう。これについては、バルファキス自身がインタビューで答えているため、本人の言葉を引きながら、その理由を探ってみよう。

バルファキスによれば、彼が長く避けてきたことがあるという。それは「もし資本主義に賛成できないのならば、資本主義に代わる別の選択肢はなにか」というテーマであり、その問いに答える本の執筆だった。常に頭の片隅にあったにもかかわらず、そのテーマを避けてきた理由は、すでにユートピア(理想郷)の姿を描いた本が数多く存在するなかで、またしても別のユートピアの姿を描き出すことが、非常に難しかったからだという。

そのいっぽうで、バルファキスは、その問いに答えなければならない義務のようなものも感じていた。たとえば、マルクスはみずからを「共産主義者」と称したが、マルクスが生涯をかけて書き残したのは「資本主義」についてであって、「共産主義」についてではない。マルクスの著書を読んでも「共産主義」の姿は浮かび上がってこない。マルクスは「能力に応じて働き、必要に応じて受け取る」と答えたが、それが実際にどう機能するのかは、結局のところ、わからない。

 

マルクスは「共産主義の姿を描くのは革命家の仕事だ」と述べた。その言葉を借りれば、バルファキスは「ポスト資本主義の姿を描くのは自分の仕事だ」と、あえてその義務を引き受け、これまで避けてきたテーマになんとか取り組もうとしたのだろう。

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