資本主義がない世界では、起業家よりカフェ店員の年収が高くなる?

経済学者バルファキスの思考実験と「仕事の評価」
青木 由美子 プロフィール

――「答えはイエスよ。ええ、国の強制によって、そのウエイターに私たちと同等の意思決定権を渡すことには、まったく問題がない。それどころか、そうすべきだと思う。こう考えてみて、イヴァ。私の数学の能力は、どう見てもあなたの能力には及ばない。私たちがカフェにつぎ込んだ労力、能力、エネルギーも必然的に同じじゃない。それでも、あなたはこの私とカフェの株を半分ずつ保有しても構わないと思うのね? もしあなたと私でカフェの株を半分ずつ保有しても構わないのなら、どうしてウエイターとはダメなの?」

創業者だけが「絶対的にすごい」のか?

――「それには、明らかな理由が少なくとも3つある」イヴァが冷静に説明した。
「第1に、私とあなたが一緒にカフェのアイデアを考え、開店に向けて労力をつぎ込んだ。だけど、そのウエイターはカフェができたあとで入り込んだ。第2に、私とあなたは同じだけ資金をつぎ込んだ。だけどウエイターは支払っていない。そして第3に、事業につぎ込んだ時間も資金も社会資本も圧倒的に少ないのだから、そのウエイターが私たちと同じだけ、事業に熱心だとは言えない」

ウォール街出身のイヴァの意見は、私たちの世界では標準的なものに思える。光を浴びるのは常に起業家である。だが、「もう一つの世界」では異なるようだ。

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――「カフェのアイデアを思いついたのは、確かに私とあなたかもしれない」アイリスが答える。「そして、開店に向けてふたりで労力をつぎ込んだとする。だけど、ビジネスはその日その日が勝負。ウエイターを採用した時から、彼女が毎日、店のためにつぎ込む労力は、私たちがすでにつぎ込んだ労力と同じじゃないかもしれない。だけど、同じくらい重要ではある。それに、カフェの所有権は本当に早い者勝ちなの? もしそのウエイターが、私やあなたには絶対に引っ張ってくることのできない、新規の顧客をぞろぞろ連れてきたらどう?」

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