資本主義がない世界では、起業家よりカフェ店員の年収が高くなる?

経済学者バルファキスの思考実験と「仕事の評価」
青木 由美子 プロフィール

「多数決」でボーナスを決めても大丈夫?

基本給は全員一律! ここまで読み進めて「公平という名の不公平」「共産主義だ」という感想を持つ人も少なからずいることだろう。素晴らしい成果を出したAさんと、リモートワークをいいことにゲーム三昧を楽しんだBさんが同じ給料とは! この点について、バルファキスは抜かりなく答えを用意している。ボーナスは一律ではないのだ。「もう一つの世界」では全社員が報奨ポイントを100ずつ持っている。主人公コスタの分身、「コスティ」ももちろんだ。

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――毎年、クリスマス休暇が近づく頃、コスティは自分の持ち分である100ポイントの報奨ポイントを同僚に配分する。その100ポイントを、すばらしい仕事をしたひとりの同僚に与えることもできる。あるいはよく頑張ったと思う同僚に、万遍なく配分することもできる。彼の同僚も同様にする。その結果、各メンバーが受け取る報奨ポイントの割合が決まり、その割合に従ってそれぞれが受け取るボーナスの額も決まる。

実に明快だ。不正や根回しを防ぐ方法も説明される。だが、これが村上春樹の小説の中でバーテンダーになされたような「数値化されにくい人事評価」とイコールかと言えば違うだろう。この点に関してバルファキスは、登場人物に対話をさせている。

元ウォール街エリートvs.筋金入りのリベラリスト

――「こんな想像をしてみて。私とあなたがカフェを始めたとする。一生懸命働いて、たっぷり愛情をかけ、もちろんお金もたくさんつぎ込む。そして、誰かを、たとえば午後にウエイターとして働いてくれる人を雇わなくちゃならなくなる。その時、あなたは本気でこう言うつもり? そのたまたま雇ったウエイターに、私たちと同じだけカフェの株を渡すよう、国が強制することは納得できる。そのウエイターに私やあなたと同じ意思決定権を渡す権利を、国は持つべきだって。お願いだから、歴史絡みの痛烈な皮肉はこの際、抜きにして、私の質問に答えてくれる?」

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「もう一つの世界」では株の売買が禁止され、投資家は存在しない。株式市場は存在せず、株は社員だけが所有する。全員が1人1株。ウエイターにも創業者と同じく1株が与えられるのだ。創業者とウエイターの「権利」が同じでいいの? その点についてウォール街出身のイヴァが疑問を呈すると、筋金入りのリベラリストであるアイリスはこう答える。

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