資本主義がない世界では、起業家よりカフェ店員の年収が高くなる?

経済学者バルファキスの思考実験と「仕事の評価」
元ギリシャ財務相にして異色の経済学者が書いた『クソったれ資本主義が倒れたあとの、もう一つの世界』。経済SF小説という意表をついた形式で、読み手にポスト資本主義社会像を提示する。「仕事の評価方法」もその一つだ。「もう一つの世界」で人はどんなふうに働き、評価されるのか。本書の担当編集者が独自の視点でご紹介する。

「おいしいカクテルを作る才能」は、正しく評価されるのか?

村上春樹氏の小説に「人事評価への言及」があるのをご存知だろうか。主人公は青山で人気のバーを二軒経営し、成功している。経営に専念しているのでカウンターには立たないが、人材確保には熱心だ。「他のお店よりおいしいカクテル」を出すことに関しては「それなりの努力」を払っていると説明する。

――「たとえば彼だよ」と僕は言って、真剣な顔つきでアイスピックで氷を砕いている若いハンサムなバーテンダーを示した。「僕はあの子にとても高い給料を払っている。みんながちょっとびっくりするくらいの額の給料だよ。そのことはほかの従業員には内緒にしてあるけれどね。どうしてあの子にだけそんな高い給料を払っているかというと、彼には美味いカクテルを作る才能があるからだよ。[中略]同じ酒を入れて、同じように同じ時間だけシェーカーを振っても、できたものの味が違うんだ。どうしてかはわからない。それは才能というしかないものなんだよ」
村上春樹著『国境の南、太陽の西』より

 

「数値化されないあなたの価値」を認めてくれるのは誰?

「生産性」が意識される時代、少ないインプットで大きなアウトプットを生み出す人ほど評価される。しかしアウトプットが可視化しにくいものである場合は厄介だ。バーのオーナー経営者であれば従業員一人ひとりに目配りし、才能を見抜けるかもしれない。だが、一般企業の上司や人事担当者が「数値化されないあなたの価値」を、見極めてくれるとは限らない。

元ギリシャ財務相、政治家にして経済学者のヤニス・バルファキスは、最新作で「仕事の評価」について新たな視座を提供している。異色の経済SF小説『クソったれ資本主義が倒れた後の、もう一つの世界』は、2008年に分岐したパラレルワールドを描いた作品だ。資本主義が倒れた「もう一つの世界」では、人事評価はどのようになされているのだろうか。

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