●90代後半:独居、生活保護受給者。尿路感染症で入院。尿路感染症は1週間で軽快したが、家族が施設入所を希望し、「施設が決まるまで病院に置いておいてほしい」といわれ、2ヵ月入院

●90代後半:腰椎圧迫骨折で入院。生活保護受給者。安静、鎮痛剤投与のみで2ヵ月入院。

●90代前半:肺炎で入院。自己体位変換もできない。家族は延命の希望なし。声をかけても応答がないが、「自宅では看られない」とのことで長期療養型病院へ転院がきまる。転院待ちのため2ヵ月入院。

●90代前半:食事を食べたがらない。貧血、電解質異常あり。施設入所待ちで長期入院。

●90代後半:寝たきり。施設入所中に経口摂取困難になる。認知症。家族が点滴を希望し、長期療養型病院へ転院を待つために長期入院。

上記は、ある総合病院にコロナの緊急事態宣言下で同時期に入院されていた高齢者の方の「一部」です。現在新型コロナウイルス感染拡大がだいぶ落ち着いたとはいえ、いまだに病床にゆとりがあるとは言い難く、「病院に病床をあけるように命令をしなければならないのではないか」という意見が出ることもあります。ですが、「病床をあける」「コロナ病棟を作る=医療従事者の要員を確保する」のためには、日本には大きく立ちはだかった壁があるように思います。病院勤務する私が実際に体験し、感じている日本医療の現実についてお伝えしたいと思います。

日本は人口ひとり当たりの病床数が世界で最も多い「病床大国」と言われている。それでもコロナ陽性になった人が入院できず自宅療養となり、そのまま死亡する事例も出てしまった。岸田総裁の元での新内閣も気になるところだが、田村厚労相は10月1日の記者会見で、第6波にそなえ、「(都道府県が)臨時の医療施設や入院待機施設の設置も進め、急激な感染拡大に対応できる体制をつくってほしい」と改めて会見で伝えた。

しかし、「急激な感染拡大に対応できる体制づくり」は簡単なことではないという。生活習慣病を専門とし、総合病院に勤務する小田切容子さんが直面していることから、その「大きな理由」のひとつについて検証する。
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コロナ病棟が簡単に実現しない背景

新型コロナウイルス感染症がパンデミックになってからすでに1年半以上が経過しています。
日本においてはこの感染症が流行り始めた当初から、「医療ひっ迫」「医療崩壊」を防ぐために国民は「自粛」「協力」をお願いされてきました。

この「医療ひっ迫」「医療崩壊」については様々な意見がネット上でも飛び交っています。「医師会の怠慢」「協力しない病院がある」「コロナ患者を受け入れると病院は収入減になるから多くの患者を受け入れられない」「日本の感染者数は少なくベッド数世界一なのになぜ日本は医療がひっ迫するのか」「民間病院はコロナ患者を受け入れず公的病院が少ないからだ。民間病院がもっと受け入れを増やすべき」など、なかには「医療ひっ迫は嘘」という意見もあります。

確かに病院はコロナ患者を受け入れると収入が減ってしまいます。その大きな理由のひとつは、コロナ患者をそれまでの通常の患者と同じ数だけ診ることはできないことです。コロナ患者一人当たりの病床は、看護師の数も含めて通常の一般病床の数床分を必要とします。また、医療従事者は常に感染リスクと向き合わないとなりません。コロナ感染症に従事できる医療スタッフも限られており、人員配置の問題もあります。さらにコロナ患者を受け入れる感染病床は、病棟自体の設備や配置の変更が必要で工事が必要なこともあります。ですから、一般病床の多くを即コロナ病床に変更するというのは現実的ではないと考えます。

しかし私は、現場にいて「理由はそれだけではない」と強く思うのです。