日頃何気なく接しているエンターテインメントが、考え方に影響を与えることもあります。影響力の大きいエンタメ作品は、時代ごとにジェンダー観をどう反映してきたのでしょうか。

今回、注目するのは「マンガ」。『大黒柱妻の日常』は、妻と夫の役割を交換した日常を描くマンガ。作者である田房永子さんと、「大黒柱妻」を公言している瀧波ユカリさんの対談から、今この作品が生まれた背景や、マンガにおける価値観の変容を紐解きます。

“男だから”じゃなくて、
立場が変われば女の人も一緒。

大黒柱妻の日常 共働きワンオペ妻が、夫と役割交替してみたら?(エムディエヌコーポレーション)

「大黒柱妻」とは、“夫より収入が多く、生活費を7割以上負担している”妻のこと。主人公は、ワンオペ育児を7年間続けた丸山ふさ子。7歳と2歳の子どもがいる共働き家庭だが、保育園のお迎えと平日の家事・育児はふさ子がほぼ担ってきた。最近夫と役割を逆転し、「大黒柱妻」になったふさ子が、立場が変わることで見えてきたものとは? 2020年からコンテンツ配信サイト『cakes』で連載を開始すると、“育児あるある”に共感の声が集まった。

――『大黒柱妻の日常』が生まれたきっかけは?

田房 私は大黒柱妻ではありませんが、夫と“担当”を変えることがあって。マンガにも出てくるエピソードなんですが、帰りが遅い日が続いたある日、家族がいるはずの部屋が真っ暗になっていました。これ、夫の無言の抗議なんですよ。「うわー怒ってる、どうしよう」って思うのに、そのまま何もせずくつろいじゃって。男だから、女だからは関係ないってことを、描きたくてマンガにしました。立場が変わればずるくなっちゃうものだよ、と。

きっと専業主婦の人は「私の話じゃないから」と、手に取らないと思うんですが、実は彼女たちにこそ届けたいんです。専業主婦のママ友が何人かいたんですけど、「夫はおむつも替えられないし、冷凍の母乳もあげられない。でも仕方ないのかな……」って話をしていて。

ある日、ふさ子が家に帰ると部屋が真っ暗に……。田房さんの実体験から生まれたシーン。
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瀧波 夫に畏縮しちゃっている?

田房 自分が社会的な仕事を何もできないと思い込んでいて、「養ってもらっているから仕方ない」って話をずっとしていました。目の前にいる同じ世代の女性なのに、まるで“ラプンツェルの塔”にいる人たちの話を聞いているようでした。いや、夫は思っているより時間あるよ。あなたたちのほうが大変だよ、と伝えたかった。

瀧波 女の人が稼ぎ手になった話が主題のマンガって描かれてこなかったよね。例えばお母さんのほうがバリバリ働いている話でも、職業・マンガ家とか、納得できる職業設定が必要だった。同様に、妻のほうが稼いでいる夫の立場も語られなくて。ふさ子の夫のトシハルが、「死ぬまで妻子を養わなくてもいいんだ」って、体が軽くなる瞬間が描かれているけれど、男の人のほとんどが、そういうプレッシャーを抱えているんだろうな。

田房 男性って、そのへんの話をしなくない? 自分で言語化しないから、女に対する恨みみたいになるんじゃないかな。女の人が弱い立場から声を上げたら「なんてことを言うんだ、お前らのために働いているんだよ」ってなっちゃう。

瀧波 鉱物好きのトシハルが、「今日はふささんが出張から帰ってくるから石を見に行ける」って楽しみにしているシーンがあるじゃないですか。そのあと、ふさ子が約束を破っちゃって。

田房 ああ、あのときは、みんなふさ子に怒っていました。温厚なパパ友ですら(笑)。

瀧波 女の人はいつもああいう経験をしているのになって。天と地の差ですよね。

最後のほうで、すれ違っていた二人が和解するシーン。夫のトシハルには冗談を言わせる予定だったが、真剣に謝るシーンに変えたという。

田房 そうだよね。ふさ子なんて仕事を1年間できなかったんですよ、石がなんだよ!(笑)。一方で、トシハルへのバッシングもすごいんです。「本当の苦労がわかるはずがない、謝罪しろ」とか。最後のほうで二人が和解するシーンで、トシハルが冗談を言う予定だったんですけど、ニコニコしないで謝罪するシーンに変えました。女の人たちがみんな怒っているのを感じたから。

モトカレマニア(講談社)

27歳の難波ユリカは、5年前に別れた元カレの“マコチ”こと斉藤真を神のように崇拝し、SNSで検索しまくる“モトカレマニア”。不動産店の営業として働くこととなったユリカだが、職場で同僚として再会したのはマコチだった……!? 講談社『Kiss』にて2017年連載開始、2021年5月号で完結。全6巻。2019年には新木優子、高良健吾ダブル主演でテレビドラマ化された。

瀧波 『モトカレマニア』の6巻でも、マコチがガチで謝っているシーンを描きました。男性が謝っている姿を見たことがなさすぎて。