頭の働きをよくする呼吸法は存在するのか?

呼吸を科学するーシリーズ第1回

人間は1日に2万回以上、一生のあいだには6億~7億回の呼吸をします。

ふだん無意識に行っている「呼吸」ですが、その裏側にはさまざまな精巧に作られたメカニズムが存在します。

この「呼吸」を科学的に検証しながら、その驚きの仕組みをはじめ、運動を楽にする呼吸やヨガ、格闘技といった競技別呼吸のコツ、さらには心と体をリラックスさせる呼吸など、さまざまな視点から徹底解説していく本が『呼吸の科学』です。

今回は、その本の中から「頭が良くなる呼吸法は存在するのか?」というテーマで解説していきます。

低酸素状態で、認知機能はどうなる?

呼吸と頭の働きを考える前に、どのような状態になると、頭の働きが鈍くなるのかを考えてみましょう。

まず、脳への酸素の供給が低下すると、脳の働きが悪くなることは、皆さんもご存じだと思います。脳が低酸素状態になると、認知機能や学習能力が低下します。

では、標高2500〜2700mの山の上や、酸素濃度が15〜18%程度に低下した環境では認知機能が低下するのでしょうか?

実はこの場合、体では脳血流を増やすなど補償作用が働くため、認知機能はほとんど低下しません。満員電車などの混雑した室内環境でも、酸素濃度は18%以上あるとされているので、酸素は足りています。したがって、受験時などの閉め切った試験会場でも、低酸素によって成績が悪くなることは、ほぼないといえます。

しかし、酸素濃度14%程度、登山でいうと標高3000mを超えると、注意力、記憶力、実行機能、作業記憶が低下することが知られていて、とくにこの中で「実行機能」がいちばん落ちやすいといわれています。さらに、覚醒レベルや反応速度、倫理的思考なども低下することが知られています。

【写真】標高3000m超では、注意力、記憶力、実行機能、作業記憶が低下するphoto by getty images 拡大画像表示

この酸素濃度がさらに低下すると(標高の上昇に伴って)、認知機能はさらに低下していきます。4000mくらいの高所に登ると、遭難事故が起こりやすくなるのは、このように頭の働きが鈍り、判断力が低下することも要因となります。ただし、これには個人差があり、低酸素に強い人は認知機能も落ちにくいようです。

酸素濃度よりも二酸化炭素濃度が問題!

低酸素状態ではこのような現象が起こりますが、実は、これらの問題の要因になっているものは「二酸化炭素の濃度」なのです。

例えば、実験的に1000ppm(=0.1%)程度の濃度の二酸化炭素の入った空気(通常の空気では400ppm程度です)を被験者に2時間半吸わせると、通常時に比べ、意思決定の能力が低下することが知られています。これは、二酸化炭素濃度が2500ppmでは、さらに低下します。しかし、ひとつおもしろいことが知られており、この状態では被験者の集中力は、逆に多少向上するという結果もあるのです!

一方、実際に部屋の換気が悪く汚れた空気(二酸化炭素濃度が1000ppm以上)では、注意機能、実行機能、推理力、計算能力、文書処理能力などの認知機能において、正確性は変わりませんが、判断スピードが鈍ることが最近のレビューで報告されています。

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