ビッグデータ駆使のコンピュータ天気予報 その黎明からの歩みと、目指すところとは?

温暖化で増えてると噂の"アレ"を制御
古川 武彦、大木 勇人

コンピュータの予報に使われる数値予報とは

コンピュータによる天気予報の代表的なプログラムの1つは「全球モデル」と呼ばれるもので、地球大気全体を格子で区切り、各格子に1つずつの気象データ(格子点値)を与えます。そして5つの物理法則の方程式を使って、格子点値の変化を数値計算していきます。数値により予報を行うので、「数値予報」と呼ばれています。

数値予報に使われる基本方程式は、ニュートンの運動の法則、熱エネルギーの保存則、気体の状態方程式、質量の法則などといった高等学校の物理で学ぶものが基本です。これに「流体力学」の手法を使って、数値計算可能な式を導き、10分後など小刻みな未来の格子点値を計算していきます。繰り返し計算することで数日後の予報も可能です。

数値予報では、コンピュータ内に作り上げたモデルの中に地球大気を描き、シミュレートするわけですが、実際の観測データはモデルの格子点の数ほど多くはありません。そこで、観測データがなくても、仮のデータを与えることで計算を行います。実際の大気の状態とのずれが生じるので、予報と実際の値を照らし合わせて補正するという過程(データ同化という)を取り入れています。

「データ同化」は情報処理の分野で聞く言葉ですが、数値予報における気象データの取り扱いもまさに情報処理です。

全球モデルによる数値予報の結果は、地球大気のすべての格子における気圧、温度、湿度などのデータとして得られます。これらを地図にプロットして、等圧線、等温線などを描くことでいろいろな天気図(未来の天気図)が得られます。気象庁のウェブサイトで「数値予報天気図」と検索すると、それらの天気図を見ることが可能です(気象庁〈数値予報天気図〉:https://www.jma.go.jp/bosai/numericmap/)。

【図】格子点概念図、数値予報の出力、未来天気図の例上図、左は全球モデルの格子点概念図で、右は数値予報の結果出力された全球の天気図や降水分布(いずれも気象庁の資料)。下図は、数値予報で出力された未来の高層天気図の例(『図解・天気予報入門』より) 図中の「湿数」は露点と気温との差を示し数値が小さいほど湿っている。等温線からは上空への寒気の流入によって大気が不安定になることを予報できる

数値を実用的な予報に翻訳するガイダンス

さて、格子点値に基づく天気図の出力だけでは、天気予報としてはまだ不十分です。実用的には、格子点ではなく各予報区において、「晴れ」や「曇り」、「最高・最低気温」、「降水確率」などの具体的な天気予報を得ることが必要です。そこで、数値予報結果の格子点値と実際の気象観測データの過去の膨大な蓄積(ビッグデータ)が活用されます。

ビッグデータの解析に使われるのは、人工知能の話でよく聞く「機械学習」「ディープラーニング」に類する手法です。予報した格子点値と実際の各地の天気の関係がコンピュータによって機械的に解析され、見いだした関連性によって、格子点値から各地の天気予報を導き出します。

このように数値予報による格子点値を、細かで実用的な各地の天気予報に結びつける過程は、「ガイダンス」または「天気翻訳」とよばれています。これらのガイダンスの結果が、私たちが日常見聞きしている天気予報として発表されます。

【図】ガイダンスの結果出された天気予報の例ガイダンスの結果出された天気予報の例(気象庁資料より)

コンピュータ時代における人の役割とは?

ガイダンスの結果はそのまま天気予報になっており、今や予報官のはたらきなしでも天気予報が得られる時代になりました。予報官は、注意報や警報発出の最終判断など、防災上の役割が主な任務になっています。

また、ガイダンスは、気象庁の部外にもコンピュータを介して配信されており、民間の気象予報士も参照しています。気象予報士が独自の予報を行うという場面はかなり少ないでしょう。

気象予報士の主な役割は、テレビなどのメディアを通じてよりわかりやすく気象情報を伝える、あるいは民間の気象会社における気象予報士の場合では、野外における工事やイベントの日程など産業分野のニーズに応える情報の作成と発信が重要な役割となっていると言えるでしょう。

もちろん、コンピュータによる数値予報の技術をより精度良いものに発展させることは、人(研究者)の天気予報に果たす役割としてますます大きなものとなっています。

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