2021.10.01
# 水俣病

「水俣病の少女が入浴する写真」をめぐる、写真家と被写体親子の「知られざる葛藤」

なぜ写真は"封印"されたのか

女帝 小池百合子』で今年、第52回大宅賞を受賞した石井妙子氏の新作、『魂を撮ろう ユージン・スミスとアイリーンの水俣』がこの度、文藝春秋社より出版された。伝説の写真家ユージン・スミスと妻アイリーンはなぜ出会い、なぜ水俣へ向かったのか。ふたりが撮り、世界に発信した水俣病の被害とはどのようなものであったのか。ふたりの生涯を通じて、水俣病問題の本質に迫ったノンフィクション作品である。筆者の石井氏に話を聞いた。

 

なぜ今、水俣病か

——なぜ今、水俣病をテーマに選んだのでしょうか。

水俣病は戦後復興と高度経済成長が叫ばれる中で起こった悲劇です。1964年には東京オリンピックが、1970年には大阪万博が開催されましたが、都市部が華やかな国際イベントに沸いている時、地方ではその前から続く水俣病、四日市ぜんそく、イタイイタイ病といった公害被害に苦しむ人々の闘いがあったわけです。

公害は高度経済成長のひずみであるという言い方をする人もいますが、「ひずみ」などではなく、高度経済成長の中に公害は内包されていたのだと考えるべきだと思います。それを忘れて当時の高度成長を日本が一番輝かしかった時代として肯定的に捉えるならば、過ちはまた繰り返されるのではないか。「なぜ今、水俣病を?」と執筆中、度々問われましたが、環境問題が深刻化している今こそ振り返るべき歴史であると考えました。

——ジョニー・デップ主演のハリウッド映画「MINAMATA―ミナマター」も公開されましたが、この映画化の前から出版の準備はしていたのですか。

約3年前、新聞でジョニー・デップがユージン・スミスの水俣時代に焦点をあてた映画を製作主演するという記事を読み、アイリーンさんに久しぶりに電話をしました。すると意外なことに、アイリーンさんは、「患者さんが傷つくような内容にならないだろうか。史実から、あまりにもかけ離れたものになってしまったらどうしよう」と、とても悩んでいたんですね。会話を交わすうちに、本として事実を書き残して伝えたい、という気持ちが高まりました。ですから、映画化にも背中を押されたと言えます。

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