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ジョブズの名スピーチ「死は生命最高の発明だ」が生物学的に正しい、これだけの理由

『生物はなぜ死ぬのか』著者が語る、その本質

今日10月5日は、スティーブ・ジョブズの命日。彼がこの世を去ってから10年となる。48歳ですい臓がんと診断され56歳でこの世を去ったジョブズは、生前、数々の名言を残しているが、その中に「死は生命最高の発明」という言葉がある。がんを患い、彼が自らの死に直面した経験を経て語られたものだ。

じつはこの発言、生物学の視点からみても正しく、説得力のあるものだという。いったい、どういうことなのか。10万部を突破しベストセラーとなっている『生物はなぜ死ぬのか』(講談社現代新書)の著者、小林武彦東大教授に話を聞いた。

〔取材・文/中川隆夫〕

死に直面したジョブズが語った「3つの話」

2005年、アップル創業者のスティーブ・ジョブズは、スタンフォード大学の卒業スピーチに招かれた。

製品発表の場以外で、彼がスピーチをするのは珍しいことだった。1年前の夏、すい臓がんの摘出手術をこの大学病院で受けたことが影響したのかもしれない。

【写真】スティーブ・ジョブススティーブ・ジョブス photo by gettyimages

彼は、「経験談を3つだけお話ししよう」と切り出した。

自身の大学中退の話、アップル創業と追放の話と続き、学生たちをもっとも惹きつけたのは最後の話だった。

1年前にがんと診断され、医師からは身辺整理をするよう勧められた。すべてのことをきちんと片付けて、別れを告げなさい、と。

それまで「死」のことを考えたことはなかったが、この宣告が「人生でもっとも死に近づいた瞬間だった」と彼は言った。

天国に行きたいと常日頃から言っている人間でさえ、実際に死を受け入れることは難しい。彼は、自らの思いを淡々と語った。

「死から逃れた人間は一人もいない。それは、あるべき姿なのです。死は、生命最高の発明です。それは生物を進化させる。古いものを取り去り、新しいものを生み出す。今、あなたたちは新しい存在ですが、いずれは年老いて、消えていくのです……」

だから、本意でない人生を生きて時間を無駄にしてほしくないと、学生に語りかけた。そして最後に「Stay Hungry. Stay Foolish」という言葉で締めた。有名な演説だ。

死があったから、生物は進化してきた

この「死は、生命最高の発明」というジョブズの発言は、生物学的にみても正しく、的を射た解釈だと言うのが、『生物はなぜ死ぬのか』の著者・小林武彦さんだ。

「死があったからこそ、生物は進化してきたのです。ですからジョブズの言っていることは正しい」

東京大学に小林先生を訪ねると、冒頭からこんな話が始まった。小林さんは、ゲノムの再生や細胞の老化について研究をしている生物学者だ。死が最高の発明とは、どういう意味なのか。

「発明というのは、ジョブズの独特の言い方です。彼が言っている意味は、『生物は進化するために死ぬ』ということでしょう。

死ぬことを延々と続けてきたからこそ、今の我々がある。死というのは、個人にとっては終点ですが、長い生命の歴史の中では常に次世代の始まりであって、死は進化の歯車を回すための原動力であったのです」

延々と続けてきたのは、数億年という単位の話だ。生き物はまだ「死」について考える脳もなく、陸上にいたのかさえも怪しい時代。そんな昔から、死は進化の原動力だった?

【写真】ごく初期の単純な生物ごく初期の段階の生物から、「死」は進化の原動力だったのか? photo by gettyimages

「38億年前の地球上に、最初の生物が誕生します。これは化学反応から生じたいわば偶然の誕生です。最初の生物は、細菌(バクテリア)のようなもので、シンプルな単細胞生物です。

ひとつの細胞が2つに細胞分裂して増えていくバクテリアには、今で言うところの"死"はありません。ところがやがて多細胞生物が生まれ、有性生殖をおこなうようになります。オスとメスが互いに遺伝子を交換して、子孫を残す。この頃から、死が重要なものになるのです」

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