62年前に誕生したコロボックル物語

1959年、今から62年前に、一冊の本が誕生した。
それが、佐藤さとるさんの『だれも知らない小さな国』。この書名は知らなくとも、「コロボックル物語」は聞いたことがある人もいるのではないだろうか。

これは1985年に刊行されたもの

「コロボックル物語」は北海道の伝説に伝わる小人・コロボックルと、人間との交流を描いたリアルファンタジーで、累計260万部のロングセラーとして時代を超えて読み継がれている。コロボックルは大人の身長が3センチほどで、普段はアマガエルの皮に身を包み、オーニソプターという羽根を付け、蜂と同じ速さで飛び回る。話し言葉も我々人間の10倍速なので、「ルルルルッ」としか聞こえない。フキの葉の下でよくくつろいでいる。地下に機知に富んだオリジナルの国を作っており、素晴らしい技術も存在している。普通の人間には決してみつからないように生きる能力を持っている小人なのだ。

村上勉画、『だれも知らない小さな国』装画(1969) 提供/神奈川近代文学館

人間からひどい目に遭わされたこともあるコロボックルたちは、基本的には人間の前に出てこない。長く観察して、信頼できるかを見極めたうえで、この人ならきっと、「トモダチ」になれると思った人の前にだけ、姿を現すのだ。つまり、「選ばれた人」しかコロボックルとはトモダチになることはできない――。

そんなコロボックルは、1巻『だれも知らない小さな国』の刊行が1959年、最終巻6巻といえる『小さなひとのむかしの話(2012年『コロボックルむかしむかし』に改題)の刊行は1987年。佐藤さとるさんのシリーズそのものは30年近い年月がかかっていた。その後、有川ひろさんが佐藤さとるさんからのバトンを直々に受け、新たなコロボックル物語も誕生している。こうして読み継がれ書き継がれている傑作の62年の歴史と、物語誕生までの佐藤さとるさんの人生を伝えるのが、神奈川近代文学館で開催されている「佐藤さとる展」だ。

コロボックルがいるかのような公園に佇む文学館

「佐藤さとる展」は、神奈川近代文学館で2007年にも一度開催された展示会だ。2021年の今年は、2017年に天国に旅立ってしまった佐藤さんに代わり、佐藤家をはじめとする方々から当館に寄贈された〈佐藤さとる文庫〉資料や、無二のコンビである画家・村上勉さんが描いた「コロボックル物語」シリーズをはじめとした、佐藤さとるさんとの、絵本『おおきなきがほしい』『かぜにもらったゆめ』などの挿絵の原画が飾られている。その資料の数はおよそ450点。「コロボックル物語」とともに歩んだ佐藤さとるの生涯の軌跡をたどっている。

宮地工氏撮影の佐藤さとるさん。原寸大のコロボックルのイラストと

元町・中華街駅を出て、港の見える丘公園の敷地内に、神奈川近代文学館はある。公園の敷地内で緑に囲まれた道を歩くと、ところどころにフキの葉があり、葉っぱをひっくりかえすとコロボックルがいるのではないかという気持ちになる。450点の資料は、佐藤さんが『わんぱく天国』『オウリィと呼ばれたころ』などで残している、戦争の体験にも触れているが、その多くは、30年近くの年月をかけて刊行されていった「コロボックル物語」の変遷が展示されている。どのように物語の骨子を作ったのかという秘蔵のノート(生前、佐藤さんはほとんど人に見せなかった)、生の原稿用紙、そして村上勉さんの原画の変遷……。

きっとコロボックルがいると思わせる公園
シリーズ5巻『小さな国のつづきの話』生原稿 提供/神奈川近代文学館

例えば、村上さんはコロボックルの大きさを、佐藤さんの原稿に合わせて厳密に描いていたという。足の大きさは人間のそれよりも比率が大きい。物語を紡いだ作者と、挿絵を描く画家と、ふたりがどのように話し合い、コロボックルの世界が誕生したのか。その様子も、展示会の資料から垣間見ることができるのだ。