日頃何気なく接しているエンターテインメントが、考え方に影響を与えることもあります。影響力の大きいエンタメ作品は、時代ごとにジェンダー観をどう反映してきたのでしょうか。

今回、注目するのは「マンガ」。私たちにとって身近な存在であると同時に、時代を色濃く反映しているマンガ。近年ではジェンダーマイノリティの当事者目線のマンガも見かけるようになりましたが、これまでにどのようにジェンダー観の変化を遂げてきたのでしょうか。マンガ研究の第一人者である岩下朋世さんに聞きました。

男装・女装の「性別越境」で
ジェンダーを描いた作品。

『リボンの騎士』手塚治虫

マンガにおける性別やジェンダーの描写は、昔から、男装・女装という「性別越境」のモチーフで取り上げられています。そのはじまりといわれがちなのが、手塚治虫の『リボンの騎士』。手塚自身によるリメイクもされているのですが、1953年に連載開始したのが最初のバージョン。

主人公は女性として生まれながら、王子として育てられ、男装しています。しかも、社会的にそう扱われているだけでなく、内面的にも男性性と女性性のどちらも持っているキャラクター。とはいえ、実はそもそも男装する女性は、この作品よりも前から、少女雑誌ではよく見かけられるものでした。また、『リボンの騎士』が描かれたのと同時期の1950年代には、映画のなかで美空ひばりが、男役や男装を頻繁に演じています。当時からいろんなかたちで性別越境が描かれてきたわけですね。そういう意味では、女性が男装する“着せ替え”的なところを楽しむ側面もあったと考えられます。

対して、男装する女性のキャラクターが登場する作品のなかで、既存の女らしさについて異議申し立てをはっきり描いたのが、池田理代子の『ベルサイユのばら』。当時の社会情勢がどうだったかというと、1970年代初頭、ウーマン・リブ運動が起きてきた流れのなかにありました。この作品では、男装する麗人・オスカルを通して、女性であることの抑圧が描かれます。

ただし、男装する女性・女装する男性が登場するからといって、すべてがジェンダーについて深く考える作品というわけではなく、エンタメとして描かれている作品もあります。江口寿史『ストップ!! ひばりくん!』は、どこから見ても美少女な男の子が出てくるコメディマンガです。こうした作品の場合、性別越境的なキャラクターは、トリックスターのような存在になっているといえます。

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少女マンガだと、女装する男性は、男性性と女性性を兼ね備えたスーパーダーリン「スパダリ」的なキャラクターとして描かれることもあります。1980~90年代当時の言い方で“オカマ”が登場する、多田かおるの『デボラがライバル』のデボラは、そんなキャラクターの一人でしょう。今世紀に入ってからだと、和央明の『姫ギャル パラダイス』。主人公が憧れている“姫ギャル”が実はイケメンの男の子で、ファッションやメイク、ギャルとしてのプライドを伝授する、ギャルとしての師であり、恋の相手でもあります。

近年だと、柳井わかなの『シンデレラ クロゼット』もそうした系譜に連なるものです。こういった作品では、トランスジェンダー的な要素はある種の理想であり、当事者の直面している問題というより、キャラを通して別のテーマを描いています。