社会的、文化的に形成された、ジェンダーという概念。心理的な自己認識や置かれた環境によって一人ひとりが抱く問題意識は違います。今回は、「ジェンダーと企業広告」をテーマに、ジャーナリストの治部れんげさんとクリエイティブディレクターの原野守弘さんに語り合ってもらいました。

治部れんげ
ジャーナリスト。東京工業大学リベラルアーツ研究教育院准教授、内閣府男女共同参画会議専門委員などを務める。著書に『炎上しない企業情報発信』(日本経済新聞出版社)『稼ぐ妻・育てる夫:夫婦の戦略的役割交換』(勁草書房)など。新著は『ジェンダーで見るヒットドラマ』(光文社新書)。

原野守弘
株式会社もり 代表。クリエイティブディレクター。代表作にNTTドコモ《森の木琴》、《Honda. Great Journey.》、OK Go「I Won't Let You Down」など。カンヌ国際広告祭ほか受賞多数。著書『ビジネスパーソンのためのクリエイティブ入門』(クロスメディア・パブリッシング)は発売半年で5刷に。


表面を真似ただけの広告は、問題の本質を捉えていない。
だから、消費者に見抜かれてしまうんですよね。─治部

イエス、ノーをハッキリ示すのは大事。
日本にも、いいものに拍手をする文化が育てばいい。ー原野

男女格差の問題に最前線で向き合うジャーナリストの治部れんげさんと、ジェンダー問題を世に問いかける企業広告を数多く手がけてきたクリエイティブディレクターの原野守弘さん。ふたりに、メッセージ性のある企業広告の成功例や、そうした広告を成功させる上で欠かせない、企業や作り手側の「感性」について話を聞いた。

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原野 僕が手がけたジェンダー問題にまつわる広告の中では、2016年の『POLA リクルートフォーラム』のCMに特に大きな反響がありましたね。

治部 「この国は、女性にとって発展途上国だ」という語りで始まるCMですね。最初に見たときは、率直にすごいと思いました。ジェンダー問題を長く取材する中で、日本企業が正面から問題に向き合えない姿も見てきたので。なぜ管理職に女性が少ないのか? と世の中が問題視するけれど、それは企業が女性から昇進の機会を奪ってきた結果。社内に残る性差別と向き合わずに、広告でだけ「女性も輝いて」とメッセージを掲げても意味がない。その点、POLAのCMは企業として女性の雇用に以前から向き合ってきたからこそ打ち出せる内容。どんなに素晴らしい広告も、企業の姿勢が伴わないと世には響かないですから

POLA リクルートフォーラム(2016-2018年)
POLAリクルートフォーラムのCMは2016年から原野さんが担当している。「この国は、女性にとって発展途上国だ」のナレーションで始まる、ジェンダーイクオリティを真正面から訴えたCMは、放送と同時に大きな反響を呼び、日本社会のジェンダーギャップを議論するきっかけとなった。表現したのは、女性販売員であるビューティーディレクターの活躍に力を入れてきた企業姿勢。リクルート広告でありながら、会社の理念を世の中に提示する企業広告としても成功した。

原野 あのCMを製作した2016年頃に比べると、最近はブラック・ライヴズ・マターなどの人権運動も広がって、世の中の問題意識が高まっている。だから今年の国際女性デーには、今まで以上にジェンダー問題を取り上げた広告が出るだろうと予想していたんです。僕も気合を入れて、POLAの新聞広告を作ったりして。でも、蓋を開けてみると、熱意ある広告は意外と少ないという、残念な日本の現状を目の当たりにしました

治部 そうでしたか。でも、世界は変わってきていますよね。例えば、カンヌ国際クリエイティビティ・フェスティバルでは、人権問題や社会問題を問う質の高い広告に与えられる新しい賞が生まれました。意思あるクリエイティビティを評価する流れや、そうした企業広告を“イケてる”と受け止める消費者感覚が育っていると感じます

原野 たしかに。日本も、様々な問題意識を投げかける広告が増えてはいるんです。でも、広告業界にありがちな、流行っているからのっかる、といったケースも出てきている。のっかることで盛り上がることを単純に悪いとは言えないですが、どうしても勉強が浅くなる。POLAや、その後に僕が担当したGODIVAやユニリーバの広告を見て、「うちでも同じような広告をやってください」と依頼があると、正直、違和感を覚えてしまいます