2021.10.01
# 嗜好品

特別レシピ公開!「宇宙の香りのコーヒー」は本当に作れるのか?

『コーヒーの科学』著者が本気で考えてみた
旦部 幸博 プロフィール

発酵で引き出される"宇宙の香り"

ここ数年、品種や産地とは別のアプローチで「ラズベリー香」を引き出したものが増えている。そのキーワードになるのが「発酵」だ。

コーヒー豆は、植物学的には種子(厳密には内胚乳)に当たり、収穫した果実から中身だけ取り出す必要がある。この工程を「精製」と呼び、 (1) 乾式精製(別名ナチュラル)(2)湿式精製(別名ウォッシュト、水洗式)に大別されている。

前者は、果実がからからになるまで(1〜2週間)天日乾燥したあと、丸ごと脱穀機にかけて種子だけを取り出す。後者は、パルパーと呼ばれる器械で、果皮と果肉をある程度削り落としたあと、水槽に浸けておく。1晩もすれば水中微生物の働きで、種子の表面にわずかに残った果肉が分解されるため、最後に水できれいに洗い流し、乾燥してから脱穀する。

【写真】パルパーによるコーヒー脱穀パルパー(中央の手回しの機械)によるコーヒー果実の脱穀。右にあるボールに種子がたまっている。アフリカ・ウガンダでの様子 photo by gettyimages

もともと、アメリカのスペシャルティコーヒー業界では「クリーンカップ」と言って、精製の過程で生豆に余分な香味が付くことを良しとしない考えがずっと主流だった。そして、ナチュラルのほうが余分な香味が付くケースが多く、ウォッシュトの方が「クリーン」だと高く評価されてきた歴史がある。

ところが、2010年頃から、乾燥途中でわざと発酵を促して、熟した果実やワインのような香りをつけたナチュラルが登場して評価が変わってきた。最近では、アナエロビック(アネロビック)と言って、ワイン醸造用のステンレス製タンクにコーヒーの果肉や果汁を入れて嫌気的条件で発酵させ、その中に生豆を漬け込みながら精製したものなども登場している。

こういった近年増加中の、発酵強めのナチュラルやアナエロビックのコーヒーからも、ラズベリー香がしばしば報告されている。その匂いには、ぎ酸エチルと同じエステル類が大きく関わっている。

発酵の過程で、酵母が作るアルコールと、酪酸菌などの細菌が作る酪酸や、酢酸、ぎ酸などのカルボン酸が生成。その両者が化学反応して、果実のような香りのあるエステル類が生じるのだ。その量は浅煎り〜中煎りのときに多く、深煎りでは少なくなる。

宇宙の色はカフェラテの色?

コーヒーは「宇宙の香り」だけでなく、「宇宙の色」とも接点がある。

1997〜2002年にかけて、オーストラリアのサイディングスプリング天文台で行われた「2dF銀河赤方偏移サーベイ」で、20万個以上の銀河の観測データを元に、Karl GlazebrookとIvan Baldryを中心とするジョンホプキンス大学の研究チームが「銀河の色の平均値」を算出した(https://www.astro.ljmu.ac.uk/~ikb/Cosmic-Spectrum.html)。その結果、導き出されたのは、ほとんど白に近い、薄いベージュ色。その色が「ミルクたっぷりのカフェラテ」を思わせることから「コズミック・ラテ Cosmic Latte」と命名された(関連記事『お答えします 宇宙の「色」は「クリーム色」でした!』https://gendai.ismedia.jp/articles/-/56687)。

カフェラテというと、今は「エスプレッソに、泡立てた牛乳をたっぷり入れたもの」を思い浮かべる人が多いだろう。しかし、Caffe latteというイタリア語はエスプレッソの発明(1884年)よりもずっと前、18世紀初頭から存在し、当初はフランスのカフェオレと同じものを指していた。

今のスタイルがいつ生まれたかは不明だが、イタリアでエスプレッソマシンに蒸気を吹き出すノズル(もともとはボイラー圧を手元で調節するためのもの)が付いた1950年代以降なのは間違いないだろう。アメリカでは1959年にカリフォルニアのCaffè Mediterraneumという店がメニューに乗せたのが最初で、ご存知スターバックスの看板メニューになった1980年代以降、誰もが知る飲み物になったと言える。

【写真】カフェラテのスタイルを作ったエスプレッソマシンエスプレッソマシンに蒸気を吹き出すノズルがついたことで、今のカフェラテのスタイルが確立したと考えられる photo by gettyimages

じつは、「宇宙の色」が最初(2002年1月)に発表されたときは、現在の薄いベージュ色ではなく、薄い青緑色だった。ところが数週間後、プログラム上のミスが発覚して訂正された経緯がある。このときGlazebrookが、色の呼び名について、冗談半分で「ベージュ(英語では『ありきたりで退屈』なニュアンスがある)以外なら何でもいいよ」と言ったことがメディアに取り上げられ、名前を提案するメールが多数寄せられた。

最終的に、候補を10個に絞ってジョンホプキンス大の天文学者たちによる投票がおこなわれたが、結局GlazebrookとBaldryの二人が「審査員権限」で、得票数7位の「コズミックラテ」に決めたそうだ(https://www.astro.ljmu.ac.uk/~ikb/Cosmic_Spectrum_files/topten.htm)。

「ラテ Latte」がガリレオ・ガリレイの母語であるイタリア語で「ミルク」を意味することと、天の川を意味する「ミルキーウェイ」(イタリア語でVia Lattea)に通じることも選ばれた理由だったという。

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