東大生が「新書四天王」の英語新書を全部読んでみた

「#新書で英語学習」ブーム到来?
現代新書編集部 プロフィール

英語を「使う」能力は、大きく分けて「発信」と「受信」の2つの側面から成る。

いま紹介した『英語の読み方』は英語を受信するスキルの向上を目的としていたが、これから紹介する2冊は、いずれも英語を発信する力を鍛えることに主眼が置かれている。

長部三郎『伝わる英語表現法』(岩波新書)

実は初版は2001年の本書。長らく絶版となっていたが、『英文法基礎10題ドリル』(駿台文庫)などで知られる人気予備校講師・田中健一氏によるツイートがきっかけとなり、8月に「岩波新書クラシックス」として復刊された。

「限定復刊」と銘を打っていたものの、復刊からわずか2ヶ月で、すでに2万5000部を越える大リバイバルヒットを記録している。時を経て発掘された名著という意味で、新書版『君たちはどう生きるか』とでも言えようか。

著者の長部三郎氏は高度経済成長期に、アメリカ国務省で日本語通訳として働いた経験を持つ。通訳として英語を駆使し、数多くの会議・会談・交渉などの現場で世界と渡り合う中で著者が気付いたこと、それは、日本語と英語のあいだには、何の共通点もないということだそうだ。

 

英語は「具体的」「説明的」「構造的

英語が日本語と大きく違う点は主に3つ。英語は「具体的」「説明的」「構造的」な言語であり、日本語はそのいずれの点でも対極にあるという。(第1章)

英語が「具体的」であるとは、どういうことだろうか。著者は駆け出しの通訳時代、「地形」という言葉をtopographyという言葉を使って表したことがあったという。すると、相手はそれをrivers and mountainsと言い換えたそうだ。日本語にも「山川」という言葉があるが、たしかにそう言われた方が、具体的なイメージを浮かべやすい。

筆者も同じような例を思いついた。聴衆に呼びかける際、日本語では「皆様」と言うのが一般的だが、英語だとLadies and Gentlemenと言う。これも直訳すると「紳士淑女(淑女紳士?)」となるから、具体性を求める英語の特徴がよく表れているように思う(ただ、最近ではポリティカル・コレクトネスの観点から、Everyoneなど、ジェンダー中立的な言葉を使うようだ)。

次に、英語の「説明的」な側面については、次の英文とその日本語訳を比べてみるとよくお分かりいただけるだろう。

英:I did what I said I would do(during my election campaign).
日:(選挙の)公約を果たした。

レーガン元大統領が実際にこのように言ったそうだ。日本語では「公約」として漢字二字で簡潔に済ませるところを、英語だと「すると言ったことをした」と言うのだ。もちろんcampaign pledge(promise)といった言葉もあるが、これだと具体的・説明的ではないため、あまり好まれないようだ。

3つ目の「構造的」という英語の特徴は、どんな英文も5つの文型(SV、SVC、SVO、SVOO、SVOC)のいずれかに当てはまるという点に端的に表れている。中でもSV、すなわち主語と動詞は、命令文などの特殊な例を除き、どのセンテンスにも必ず含まれている。これは当たり前のようでいて、実はなかなかすごいことだ。

一方、日本語では、主語はしばしば省略されるし、英語と違ってどんな言葉でも主語になれるわけではない。

古文の授業を思い出してみてほしい。手当たり次第に主語が省略されているせいで、行為の主体が誰か分からず、文意が掴めなかった経験はないだろうか。筆者はある。

英語にはそのほかにも、並列性、相称性、対比性、連続性など、さまざまな構造的特徴があるという。これらについては、第5章「英語の構造と日本語」で詳しく解説されている。

「日本語と英語のあいだには、何の共通点もない」と著者が主張する理由がご理解いただけただろうか。

大学入試問題に挑戦!

本書ではこれらの違いを踏まえた上で、日本語の意味・内容をどうしたら英語で有効に伝えられるか、その手法を学んでいく

最初は日本語の名詞(単語)から英語を考えることからはじめ(第2章)、段階的にレベルをあげていき、最終的には大学入試で実際に出題された英作文の問題にもチャレンジする(第4章)。以下は実際に本書に収録されている和文英訳の問題だ。

「たとえば青信号で人や車は進み、赤で停止する。このとりきめは世界に及ぼしうるし、現に及んでもいる。普遍的という意味で交通信号は文明である。」                   長部三郎『伝わる英語表現法』p.102

いかがだろうか。こなれた印象の、いかにも難関大学で出題されそうな和文英訳の問題だ。筆者も受験生時代にこのテの問題に何度か取り組み、全く歯が立たなかった記憶がある。模範解答を見れば「あー、確かに、そう書けばよかったのかあ」とはなるのだが、では具体的に、どのような発想のプロセスを踏めば、初見で解けるようになるのか。それを教えてくれる先生や参考書には結局出会えずじまいだった。

まさか今になって出会うことになるとは...。本書で学ぶ発想法を身につければ、こんな難しい問題にも太刀打ちできたかもしれない、そんな手応えを感じられた。

英作文対策に悩む受験生はもちろん、英語での発信力を高めたいと願うすべての人にオススメしたい一冊だ。

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