習近平の「窮余の一策」中国のTPP参加申請は関係国が一蹴すれば良い

EUへ腹いせがヤブ蛇、台湾申請引出す

本命は「EU・中国包括的投資協定」

それなら今になって、中国政府は一体何のためにTPP参加の申請を出したのか。実は今の習近平政権になってから、最高指導者の習近平主席が「TPP参加」を初めて口にしたのは2020年11月20日のことである。その日、彼は日米中など21カ国・地域のアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議にオンラインで出席して、「TPPへの参加を積極的に考える」と表明した。

習主席はどうしてこのタイミングでTPP参加の「検討」を表明したのか。「対中国の貿易戦争を発動したトランプ政権への牽制であろう」というのは当時の一般的な解釈である。しかし実際のところ、その直前において米大統領選が実施されたことの結果、トランプ政権の終焉がすでに確定されているから、習主席の「検討表明」の思惑は別にあるのであろう。

それは一体何か。ここでは一旦、TPPの「環太平洋地域」から離れて、中国と密接な経済関係のあるもう一つの重要地域に目を転じてみよう。「TPP参加を考える」という習主席の本心は、これで何とか分かってきるのである。

この重要地域はすなわち欧州、EUという巨大な経済ブロックのことである。実は、中国とEUとは習近平政権成立直後の2013年から、「EU・中国包括的投資協定」に関する交渉を三十数回も重ねてきて、2020年11月はちょうど、この交渉は最後の大詰めを迎えたもっとも肝心な時期である。

習近平政権にとって「EU・中国投資協定」の締結こそは「一帯一路」と並ぶ「大戦略」の一つである。インド太平洋地域において日米同盟との対立が決定的なものとなっている中で、金融市場などを含めた中国市場にEUを全面的に誘い込んできてEUと中国との経済的一体化を図るのは、中国にとっては単なる長期的経済戦略だけでなく重要なる国際戦略だったのである。

したがって習近平政権としてはどうしても、「EU・中国投資協定」の大詰めの交渉を成功裏に進めたかった。そしてこの視点からすれば、去年11月における習主席の「TPP参加を積極的に考える」発言の真意が分かってくるのであろう。

何のことはない。この発言は単に、EUとの「投資協定交渉」を有利に進めるための陽動作戦であって、「EUとの投資協定が駄目になったらTPPの方へ行くぞ」とEU側に聞かせるための脅し文句だったのである。

 

この「脅し文句」が一定の効力を発揮したのだろうか、2020年12月30日、中国とEUはやっと「投資協定」の締結に大筋合意した。その日、習主席は自らEU側とのオンライン会議に出席し、EU首脳と共にこの「歴史的合意」の達成を宣言した。それからの数日間、中国の国営メデイアはいっせいに「中国の歴史的大勝利」だと称えて大歓声を上げていたが、この「歴史的大勝利」に大いなる達成感を覚えたその時の習主席はおそらく、TPPなんぞはとっくに忘れていたのであろう。

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