日本ではここ十数年にかけて、発達障害(ADHD、ASD)への認知が高まり、今やメディアで発達障害の言葉を見ない日はないほど浸透した。

韓国でも近年、特にADHDに対する関心が高く、当事者による手記や子育て本が出版され、SNSで公表する動きや当事者のコミュニティが現れ始めている。国内研究においては、1985年頃から専門誌で小児科疾患の領域として言及され、成人の疾患については2000年代から加速した。

しかし、診断率は諸外国に比べて低い傾向にある。大韓小児青少年精神医学会が2018年に発表した統計によると、国内におよそ82万人の患者がいる中、診断率は0.7%前後である。

診断が広まらない背景には、日本と同様に根強い社会的偏見と、ADHDが主に「青少年」の疾患として取り扱われ、成人向けの専門医が不足しているという事情がある(ちなみに北朝鮮でもADHDは青少年の疾患として取り扱われている)。

だが韓国ではその代わり、「症状の性差」にフォーカスする動きが出はじめている。そのきっかけをつくった人物である臨床心理専門家(※日本の臨床心理士に相当する資格のうちの一つ)のシン・チスさんと、現在、ADHD女性のドキュメンタリーを制作中だというパク・ポネさんに話を聞いた。

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精神障害の診断は「男性基準」になっている

臨床心理専門家として精神科に勤務するシン・チスさん(30歳)は、その狼煙を上げた人物の一人だ。自身もADHDの診断を受けており、今年6月には著書『私は今日、私にADHDという名を与えた』(未邦訳)を上梓した。

「精神疾患および発達障害の症状に性差があることは世界中の研究で明らかになっています。精神科医療が患者の個人的な側面に依拠し、雇用の不平等や暴力被害など女性がおかれている社会的立場や環境要因を考慮せず治療や診断を進めることは非効率的であると考えます」(シン・チスさん、以下同)

アメリカ精神医学会が作成する精神障害に関する国際的な診断基準である「DSM」が男性の症状を基軸に書かれ、女性については周縁的な扱いをされているという批判は古くから行われてきた。

ADHDも例外ではなく、主症状とされる過剰行動や衝動性は多くが男性に該当するもので、女性は注意欠陥型が優勢だとされる。もちろん個人差はあるが、その数は男性患者の2.2倍であるという研究結果もある(※1)。併発症においても、男性はアルコール依存症、反社会的人格障害、行動障害(自傷や他害行為など)などと外在化しやすいのに対し、女性は不安、抑うつ、身体症状、過食症など内在化傾向がより強い(※2)
女性のADHD患者は個人の性質とみなされ、診断から長らく排除されてきたと言えるのである。

※1
- Influence of Gender on Attention Deficit Hyperactivity Disorder in Children Referred to a Psychiatric Clinic
https://doi.org/10.1176/appi.ajp.159.1.36

※2
- 이소연. (2014). 정신장애 진단에서의 젠더 편향. 아시아여성연구, 53(1), 153-190.
- 高橋 清久, 精神医学とジェンダー, 学術の動向, 2003, 8 巻, 4 号, p. 13-19,
https://doi.org/10.5363/tits.8.4_13