劇作家、ロックバンドのヴォーカル・ギター ――作家として作品が発表されるごとに常に話題となる本谷有希子さんと尾崎世界観さん。共に「もうひとつの創作の場」をもつ二人が、小説について、アイデアの源泉について刺激的な言葉で語り合うスペシャル対談。蔦屋家電二子玉川にて配信されたオンライントークイベントから、凝縮してお届けする後編。「セブンルール」という番組で共演するお二人が「小説のセブンルール」について語りながら、互いの小説についても深く掘り下げています。後編では「ルール4」以降と、寄せられた質問へのお二人の回答をお送りします。

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好きな本、好きな映画は知られたくない

尾崎 「ルール4」はどうしましょう?

本谷 「小説のようなものを書かない」かな。私は小説「のような」小説が一番、恥ずかしいと思っているんです。小説を書くときに生まれるムードみたいなものに捕まらないように細心の注意を払っています。私が初めて小説を書いたのは、初めて戯曲を書いたのと同じ頃で、19歳でした。順番としては、演劇が先だったので、私のホームは演劇だと思ってたんですが、途中から両輪になり、今は完全に逆転して、小説の方が向いているかもしれないと思い始めています。実は、まだ戯曲の書き方のコツを掴んでいないんですよ。

尾崎 それは掴んだ方がいいということではないんですよね?

本谷 いや、掴みたいんです(笑)。小説は、一作、全力を出して書ききると、確実に違った景色が見えるんです。そうなると、昔、つまらないと思った小説が面白いと思えるようになったりして小説観に変化があるんですけど、戯曲だとその感覚が一向に訪れなくて……ずっと同じ景色を見ている感覚です。

尾崎 それはなぜですか?

本谷 小説は、海外の古典も含めて手軽にあらゆるものを読めますよね。自分の作風から最も遠いもの、とか。それで刺激を受けたり、固定観念を覆されたりするんですけど、戯曲は…古典も新作もなかなか読む気になれなくて(笑)。読むのは、今となっては海外小説が多いです。

尾崎 そこも逆です。僕は近い人ばかり読みます。だからオススメの本は? と聞かれるのがすごくイヤなんです。『情熱大陸』の取材で家の本棚を撮る時に、「ちょっと待ってください」と、読んでいると思われたくない純文学作家の本を裏返しにしたりして(笑)。

本谷 私は「人生で一番影響を受けた映画はなんですか?」と聞かれて何本か挙げた中に、『タイタニック』を入れたんです。私も大人になったなと思いました。少し前だったら、絶対に挙げなかった(笑)。

尾崎 逆に本谷さんくらいになると、あえてかまして来たなって思いますけど(笑)。

本谷 文字通りに「よかった」というのではないんです。高校生の時に友だちとこの映画を観に行って、最後のシーンでめちゃくちゃ笑ってしまったんです。「あー。監督、やっちゃったな」って。映画史に残る、恥ずかしいシーンが誕生した、と思い、当然みんなも笑ってると思った。だけど周りを見たらみんな泣いていて。そのことに衝撃を受けたんです。自分が面白いと思うことって、みんなが面白いと思うことじゃないんだと、その時に初めて身をもって痛感しました。だから、人生に影響を与えた映画として挙げたんです。

尾崎 ミーハーだったわけじゃなくて、めちゃくちゃしっかりしたエピソードですね。

撮影/唯根隼人
本谷有希子(もとやゆきこ)
1979年、石川県生まれ。2000年「劇団、本谷有希子」を旗揚げし、主宰として作・演出を手がける。主な戯曲に『遭難、』(第10回鶴屋南北戯曲賞)、『乱暴と待機』、『幸せ最高ありがとうマジで!』(第53回岸田國士戯曲賞)などがある。主な小説に『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』、『生きてるだけで、愛』、『ぬるい毒』(第33回野間文芸新人賞)、『嵐のピクニック』(第7回大江健三郎賞)、『自分を好きになる方法』(第27回三島由紀夫賞)、『異類婚姻譚』(第154回芥川龍之介賞)、『静かに、ねぇ、静かに』など。最新作は『あなたにオススメの』。