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「一番分かってほしい家族に理解されない」認知症当事者が抱えるストレス

認知症の私から見える社会(9)
39歳でアルツハイマー型認知症と診断されて8年、全国を飛び回り、300人を超える認知症当事者と対話し続けている著者、丹野智文。彼だからこそ書けた当事者の「本音」、そしてよりよく生きていくための著書『認知症の私から見える社会』から注目の章をピックアップしてお届けします。
認知症当事者700万人時代を迎え、すべての人のすぐ隣にある世界をもっと知るために。

「ストレス」という最大のリスク

支援者も家族も「リスクがあるから」と言います。これから起きるかもしれない危険、危機の可能性を回避するために当事者の行動を制限します。

たしかにケガをしたりすることで入院などすれば、当事者も家族も大変です。

でも最大のリスクはストレスです。そもそも認知症の症状で当事者には不安からくる大きなストレスがかかります。周りの人たちにはわからない、自分自身の中で忘れてしまったことやできなくなったことへのいら立ちや情けなさ、これだけでも大きなストレスです。それだけですむならよいのですが、外部からのストレスがさらに追加されます。それは、「行動の制限、監視などからくるストレス」です。

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ストレスが溜まると身体機能にも影響を及ぼします。また、集中力がなくなり倦怠感も引き起こされます。私も診断直後、大きなストレスから気持ちにも身体にも変化が出ました。診断前の自分とは明らかに違ったのです。だから毎日不安と恐怖から涙が止まらなかったのだと思います。いま振り返るからこそわかることです。実際にその大きなストレスの中にいた時には混乱と不安と恐怖から抜け出せないでいました。自分が自分でなくなっている感じでした。

そうなると、記憶力はさらに低下し、やる気も出なくなりました。そんな自分が嫌で死にたいと考えた時もあります。

さらに、そこに行動の制限、監視などが加われば、さらにひどいストレスになり、必死でその場から逃げ出したいと思うようになります。私は、徘徊の原因の一つにはこれがあると思っています。ストレスが原因で徘徊している場合、「自殺」につながることがあると思います。

徘徊して亡くなられた当事者がいました。その時の状況を聞くと、「どうしてここで?」と思われる場所で亡くなっていました。人は道に迷ってわからなくなった時、パニックになり物事を考えられなくなります。そのような時でも、人間の本能からなのか、広いところ、明るいところへ行こうとし、見つけてもらえることが多いのです。

しかし、亡くなっていた当事者は「狭いところ、暗いところ」で見つかったそうです。私はこのことを聞き、ストレスからきた自殺ではないかと考えました。私は医者でも専門家でもないし、亡くなった当事者から直接話を聞いたわけではないので真実はわかりません。しかし、私の中にあったストレスを思い返すと、この人には自殺願望があったのではないかと思うのです。

認知症の症状がもたらす日常生活でのストレスは、自分自身が症状を受け入れ、工夫することで改善されます。また、周囲の人との関わりで良い関係が築けていたら、ストレスは少なくなります。でも、「行動の制限や監視」があると、強いストレスがかかり、当事者をダメにしてしまいます。ケガをするリスクよりも「行動の制限や監視」からくるストレスによるリスクのほうが、より大きいと私は思います。

当事者で元気な人は年齢にかかわらず、「診断後も自立した生活をしている、自分で決めて自由があるから元気でいられる」と言っています。

家族も当事者もできるだけストレスを溜めない、与えないようにすることが大切です。

そのためにも、当事者も家族も周りの人たちのサポートを受け、それぞれ自分の時間を持つことを意識してもらいたいのです。

 

そこで大切なのは「お互い様」という気持ちではないでしょうか。

周りに迷惑をかけて申し訳ないと思うのではなく「お互い様」と思う気持ち。当事者・家族が困っている時には、助けてと言い合える関係を作ることが大切だと思います。

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