「あれもこれもダメ」で“困る自由”が奪われる。認知症の私が家族に求めるモノ

認知症の私から見える社会(7)
39歳でアルツハイマー型認知症と診断されて8年、全国を飛び回り、300人を超える認知症当事者と対話し続けている著者、丹野智文。彼だからこそ書けた当事者の「本音」、そしてよりよく生きていくための著書『認知症の私から見える社会』から注目の章をピックアップしてお届けします。
認知症当事者700万人時代を迎え、すべての人のすぐ隣にある世界をもっと知るために。

当事者がイライラしている理由

支援者は当事者に、心配そうに「何に困っていますか?」等、深刻な表情で、困りごとを訊きます。助けてくれるのかと話をすると、ただ聞くだけです。「大変ですね」「つらいですね」と言われても何も解決しません。「私も同じですよ」「歳をとるとよくあることですよ」と慰められてもイライラするだけなのです。

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このような時、当事者が自分のことを「何もできなくなった、忘れやすくなってバカになった」と言うことがあります。それは、自分の中で物忘れが増えてきたことを、自覚しているからです。だから「バカになった」と言うのです。そして、そのことに対して支援者から「大変ですね」と返されるのです。

家族から「病気を認識していない」と言われることもあります。その時に当事者は何も言い返せずにイライラしています。何もできなくなったわけでもなく、病気を認識していないわけでもありません。自分に起こっていることが、「病気からきたものなのか、老化からきたものなのか、わからない」ので混乱しているだけなのです。どのような状態が認知症の症状なのか、よくある物忘れなのか線引きができないので混乱してしまうのです。

イライラして、混乱している時に「困っていることはありませんか?」と無責任に訊かれるので、余計当事者はイライラします。そして、共感を示そうとして「私もよく忘れることがあります」と言う人が多いので、「それなら、なぜあなたは病院に行かないの?」という気持ちになり、さらにイライラしてしまいます。

特に若い当事者のほうがイライラするようです。それは明らかに周りの人たちと自分の物忘れが違うのを感じているからです。

一方、高齢の当事者は同じような年齢の人に言われると、診断されたか、されていないかの違いで似たような状況だと自分から見ても感じるし、老化もあるので、そんなにイライラはしないと言っていました。年齢によって、同じ言葉でも受け取り方が違うのです。

高齢の当事者の中には会うたびに「バカになった」と言っている人もいましたが、認知症のことを知ることで受け入れたのか、最近では「歳だししようがない」と言い方が変わってきました。きちんと自分の病気のことを知ることも必要だと感じる出来事でした。

支援者の言葉を聞いて、「まったく自分の味方でもなく、解決もしてくれない」と感じる時、当事者は「何も困ってないよ」と答えます。そうなると、お互いにその場がつらい場になります。

お互いにつらくならないためには、困りごと全般に対して、認知症の症状だろうが老化だろうが関係なく、工夫をすることを一緒に考えてくれるとうれしいです。

当事者は「このように工夫をしたら困らなくなったよ」と教えてくれるだけで良いのです。何をどのように工夫したら困らないか、当事者と一緒に考えてくれたら、その人を自分の味方だと感じることができます。

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