DNA遊園地の妖精

2051年のナノワールド物語
藤崎 慎吾 プロフィール

30年くらい前までは、ある程度、専門的な知識を必要としたDNAオリガミですが、今では人工知能(AI)が助けてくれるので、小学生でも気軽に遊べるようになっています。最初に「こんな形をつくりたい」という絵を端末に描けば、なるべく、それに近いオリガミを設計してくれます。完成予想図を見て不満だったら、AIとやり取りしながら可能な範囲で修正していきます。

設計が終わったら「折って!」ボタンをタップするだけで必要なDNAが合成され、それらが自動的に組み上がって、数時間後にはオリガミができています。あとは内蔵されている超解像顕微鏡で、仕上がりを見るだけです。材料費は小学生にはちょっと高いので、お母さんに買ってもらっています。

そもそも愛さんがDNAオリガミに興味を持ったのは、お母さんが最先端のDNAオリガミや分子ロボットの研究をしているせいでした。いつも仕事の話を面白そうに聞いていたところ、去年のクリスマスにDノアをプレゼントしてくれたのです。愛さんが遊びながら、科学技術により親しんでほしいと考えたのでしょう。

30年前でも理系の大学生が独自のアイデアでDNAオリガミをつくり、そのユニークさを競う国際的なコンテストがありました。今ではその対象が、小学生も含めた一般の人にまで広がっています。さすがに4年生での参加は、まだ少ないのですが、恵まれた環境を生かして挑戦してみたいと、愛さんは思っています。

今、つくっているのは「DNA遊園地」です。DNAオリガミで、遊園地の様々なアトラクションを再現しようとしているのです。10種類以上をつくって並べ、最終的にはナノスケールのテーマパークにしたい、というのが愛さんの「野望」です。

最初につくったのは、観覧車でした。車輪のようなオリガミの中心に「分子ワイヤー」という硬い軸を通して、支柱になるオリガミの軸受けにはめました。直径は1ミリの1000分の1です。これだけでも「ブラウン運動」という現象によって、不規則に回転はするのですが、AIに相談して一方向にしか回らない工夫をしました。

あとは箱状のゴンドラをつくって、中に小さな金のビーズを入れ、車輪にいくつか取りつけました。そしてゴンドラがいちばん下に来ると紫外光が当たり、それに反応する扉が開いて、中のビーズが別のビーズに入れ替えられる仕掛けも加えました。つまり「お客さん」が乗り換えるわけです。

似たような手法で、メリーゴーラウンドやコーヒーカップのような回転系のアトラクションを、いくつかつくりました。また特殊な配列の二重らせんDNAが、右巻きになったり左巻きになったりするのを利用して、船形のゴンドラが揺れるブランコもつくりました。いちばんシンプルなのは、油滴の上をふらふら動きまわるDNAオリガミのいかだです。これは小さな子供向けのアトラクションとしてつくりました。

最も大がかりだったのは「ジェットコースター」です。これは立体的につくった細長いDNAの足場、あるいは線路の上を、オリガミの列車が移動していく仕組みになっています。ブラウン運動と酵素や光による反応を利用してDNAを動かす「DNAウォーカー」の一種ですが、いかに素早く移動させるかでAIをずいぶん悩ませました。

半年ほどかかって、とりあえず一通りのアトラクションが揃い、遊園地らしい雰囲気ができあがってきました。でも愛さんとしては、物足りなさを感じています。いくらアトラクションを増やしても、それは変わらないでしょう。せっかくの遊園地なのに、遊びに来てくれる人がいない、というのが物足りなさの原因だからです。観覧車に乗る金のビーズは、やっぱりDNAオリガミの一部にしか、見えてきません。

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「人の代わりにDNAウォーカーをいっぱいつくって園内を歩かせても、ほとんど決められた通りに動くだけだから、つまんないだろうなあ」

愛さんは、ため息をつきます。今のところは自分の視点をナノサイズの世界に持っていって、お客さん気分を味わうしかありません。

愛さんは昨晩、自分が寝ている間に撮影された超解像顕微鏡の映像を、早回しで再生しました。ナノ世界の動きは、基本的にゆっくりなので(ジェットコースターでさえ、線路を一巡りするのに1時間ほどかかります)、早回しで見るのがちょうどいいのです。映像は三次元で撮影されていて、端末の画面ごしではあるものの、愛さんは園内を自由にウォークスルーしながら変化を楽しめます。

途中まで見た時、愛さんは「あっ」と声を上げました。例の妖精が目の前を横切ったのです。これまでにも何回か見かけていましたが、いつもすぐに消えてしまうため、はっきりとその姿をとらえられずにいました。だから、もしかしたら顕微鏡のノイズか、あるいは何かのゴミが浮いているのではないかと考えていたのです。

「よーし、今日は逃さないよ」

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