お客さんが笑ってくれる時がめっちゃ嬉しかった

2020年1月のことだ。新型コロナウィルス感染症が、じわじわと日常生活を侵蝕し始めたばかりの頃、吉岡さんは、池袋にある東京芸術劇場プレイハウスのステージに立っていた。イギリス演劇界を牽引する劇作家サイモン・スティーブンスが、自分の欲望を叶えるために悪魔と契約を結ぶ「ファウスト伝説」の舞台を現代のロンドンに置き換えた意欲作『FORTUNE』。演出のショーン・ホームズが、日本のクリエイターと組んで、世界に先駆けて幕を開けた作品である。上京する前、学生演劇にのめり込んでいた吉岡さんにとって、念願の舞台だった。

「東京公演中に、劇団☆新感線のいのうえひでのりさんが観にきてくださったんです。それまで私はいのうえさんにお会いしたことがなかったんですが、終演後に、事務所の社長から、『いのうえさんが、(舞台を)一緒にやろうとおっしゃってたよ』と聞いて。そのときは、『嬉しいなぁ。いつか出られるといいなぁ』という感じで、まさか本当に呼んでいただけるとは思っていなかったです」

撮影/山本倫子
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『FORTUNE』は、東京公演が終わると松本と大阪を回ったが、最後の北九州では、初日は開いたが、28日以降の4公演は中止となった。4〜6月は、緊急事態宣言のために中止になった舞台公演は多かったが、9月から10月にかけて、ケラリーノ・サンドロヴィッチさん作・演出の舞台『ベイジルタウンの女神』は、無事上演された。

「緊急事態宣言が明けてすぐ稽古に入ったのですが、たまたまコメディ要素の強い作品で、お客さんが笑ってくれる時がめっちゃ嬉しかったです(笑)。幕が開けたばかりの頃は、上演前、感染防止のために劇場内に『声のリアクション厳禁』という趣旨の注意書きが出ていたんです。でも、ケラさんが『お客さんが素直に楽しめなくなってしまうから、笑い声まで控えさせるような呼びかけはしないでほしい』と要望を出して、掲示を変更してもらったことで、ようやく劇場に笑い声が広がりました。お客さんの立場になったら、観劇の際にリアクションが取れないのは戸惑いますよね」

吉岡さん自身、舞台は演じるだけではなく、観るのも大好きだという。『ベイジルタウンの女神』も地方を回ったが、舞台が終わってカンパニーでご飯を食べることも諦めなければならない状態が続いた。