衝撃のCMから20年…そろそろ、子どもの想像力を奪うのはやめませんか?

ふたりの作家が『まっくろ』を追い求めたワケ
大和田 佳世 プロフィール

カンヌ広告賞受賞から絵本へ

その受賞ニュースをロンドンで見たと思われるのが、当時イギリス留学中だった絵本作家・黒井健氏の息子だった。

「すごいCMを見たよ。お父さんが絵本にしてみたら」と日本にいる黒井氏に連絡してきたという。滅多に連絡をよこさない息子がわざわざそんなことを言ってきたことに驚き、黒井氏は「見る」と約束。そのCMを探し、見て、同様に衝撃を受ける。

「YouTubeもない頃ですね。黒井健さんが僕を探し当て、訪ねてこられたときはすごく驚きました。CMって短命なもので、どこか使い捨てられていくものだから、絵本にというお話はとてもうれしかった。でもあの動画のストーリーがどんなふうに定着するんだろうとすぐにはイメージできなかったんです。」(高崎氏)

内心ではとても緊張していたという高崎氏だが、一方、「そんな風に見えなかった」と笑うのが絵本作家の黒井健氏。

1969年生まれの高崎氏に対して、黒井氏は1947年生まれ。初対面の広告会社のプランナーに、絵本化したい旨を真摯に申し出たが、高崎氏の複雑な表情に、黒井氏もまた戸惑いを感じたという。

 

『あの少年は、僕です。』

「私が“ちょっとユーモラスに描きたい”と伝えたとき、高崎さんが微妙な顔をされたんですよ。それで『あの少年は、僕です』と仰った。そこで、これは困ったと思ったんです。作者の意思を尊重するのが、挿絵画家の仁義ですから……。

高崎さんの心に沿わないものは描いてはいけないと思った。絵本化についてはいいですよということだったけど、本当にいいのかなと半信半疑でした」(黒井氏)

『ごんぎつね』(新美南吉/作 黒井健/絵 偕成社)

黒井健氏の絵本は『ごんぎつね』(新美南吉/作 偕成社)や「ころわん」シリーズ(間所ひさこ/作 ひさかたチャイルド)をはじめ、色鉛筆の繊細なタッチが美しくやわらかい作風だ。絵本は子どもが読むものであるため、子どもの心が和らぐような、絵からにじみ出るユーモアを黒井氏はイメージしていた。

「ユーモラスという言葉を僕が正確に受け取れきれなかったんですね。できあがったものをみるとその言葉の意味がとてもよくわかります。でも僕は、あのストーリーを変えるという意味にしか受け取れなかったんだと思います。

あのCM自体はむしろユーモラスとは逆で、大人たちの無自覚さを刺すようなそんなシリアスさが重要だと思っていたので意外で」

と、高崎氏は当時を振り返り、戸惑いの理由を語っている。

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