2021.09.29
# AI

「数学を究めてビジネスになるの?」 東大数学科発のベンチャー企業を直撃

数式の力で社会課題を解決するには

「宇宙という書物は数学の言葉で書かれている」と、ガリレオ・ガリレイは語りました。その考えに則れば「直角三角形の3辺の長さの関係を表す三平方の定理もピタゴラスがゼロから『考え出した』ものではなく、彼が『見つけた』ものです」と、Arithmer(アリスマー)株式会社代表取締役社長の大田佳宏氏は語ります。

同社は最先端の高度数学を応用したAI技術を開発する、東京大学で初めての「数学ベンチャー」。数学を究めれば、世の中に存在する数多くの課題に解決策を見つけられるという信念のもと、現在は既に7つの分野に渡って20種類以上のソリューションを提供し、ネクストユニコーン(評価額が10億ドル以上の非上場のスタートアップ企業)の有望株となっています。

日本クリエイション大賞2020で社会課題解決貢献賞を受賞したArithmerは、実際に数学をどのように活用し、社会課題を解決しているのでしょうか。

Arithmer(アリスマー)株式会社の大田佳宏氏

数学は彫刻である

——御社のビジョンには「見えない価値を削り出す」と書かれています。普通なら価値を創り出すと表現するところですが……。

彫刻家たちは、よく次のように語ります。“彫刻とは、自分の頭の中に浮かんだイメージを創り出す芸術ではなく、石や木などの素材の中に、元から存在する美の形を削り出すものだ”と。ミケランジェロも、あるいは日本では運慶や快慶も同じように語りました。

私たちが携わっている数学も同じです。数学とは、既に宇宙に存在する公理や定理を見つける学問だと思います。その数学を使って私たちは、今はまだ見えていないけれども、世の中に確実に存在しているはずの価値を削り出して社会に提供したいのです。

——創り出すと削り出すでは、世界との向き合い方が異なるのですね。

ガレリオが語ったように、数学とは世界を記述する言語です。だから数学の中には、世界のさまざまな課題の解決策も記されています。その解決策を削り出すのが私たちの仕事です。

実際、数学は世界を変える力を持っています。その一例がガウスら多くの数学者によって発見された虚数です。二乗してマイナスになる数などあるはずがないと、それまでの人類は虚数に背を向けていました。けれどもガウスらが数の概念を複素数にまで広げた結果が、現代では量子力学など最先端の科学技術に結実し、現代社会を成り立たせています。

試行錯誤を繰り返しながら何かを創り出すやり方と、世界の本質を削り出そうとする数学的アプローチでは、おそらく世界との向き合い方が異なるのだと思います。

スマートフォンで、ビッグデータをリアルタイム処理

——スマートフォンを活用した自動車向けサービスを提供していると聞きました。

自動車の危険運転をチェックする動画解析サービスを提供しています。専用アプリをダウンロードしたスマートフォンを自動車のダッシュボードに取り付けて、運転状況を動画で記録します。前方に出てくる信号や一旦停止などの標識をエッジ端末のAIが解析し、ドライバーが信号無視や一時不停止などの危険な運転をしたときだけ、その映像を保存する仕組みです。後でこの映像を点検すれば、ドライバーは自らの運転状況を確認でき、運送会社などは自社ドライバーに対する安全指導に活用できます。

——ドライバーの意識改革は安全運転の徹底につながりますね。

もう一つ、経路上の危険箇所を、運転中のドライバーにリアルタイムで知らせるサービスも提供しています。例えば、ある道路を夕方の4時に走っているとしましょう。その際ドライバーに“前方約300mの交差点では、この時間帯に飛び出しが多い”といったアラートを出して注意を促すのです。特定の場所、しかも特定の時間に限定された情報提供によって事故を防止するサービスは、海外でも高く評価されています。

——容量の大きな動画データをスマートフォンで簡単に処理できるのでしょうか。

従来の高精度な動画解析システムでは、高性能なワークステーションなどを使っても、計算に数時間以上を要するほどのビッグデータです。とはいえ数時間後にアラートを出しても、もちろん何の意味もありません。必要なのはリアルタイムでの適切な情報提供です。これをスマートフォンで行うためには、演算処理のアルゴリズムをゼロベースで設計し直しました。

スマートフォンで撮影された動画から、信号無視や一時停止無視といった危険運転、車間距離といった不適切な運転を検知してリアルタイムで警告できるほか、動画を解析してハザードマップの作成なども可能だ。資料提供/アリスマー株式会社

関連記事